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いつのまにか夜になっていた。まわりが明るすぎるせいか、今日が満月だってことにしばらく気づかないままでいた。僕はなるべく明かりが少なくて、空の見えるところを探して歩いていた。まるい月がビルの向こうに輝いている。もしかしたら、ルナはあの月からやってきたのかもしれない。僕はふと、そんなことを考えた。ルナはかぐや姫だったのだろうか。月を見て歩いているうちに、僕はルナと初めて会った場所にもどっていた。そしてルナとはじめて会ったときと同じようにタバコに火をつけた。ライターには一人で写っているプリクラが貼ってあった。僕はこのことにはじめて気がついた。ルナとはじめて会ったときに貸してあげたライターは、そろそろガスがなくなりかけていた。ルナはいつこのシールを貼ったのだろう。ルナはあのとき買ったライターは使わずに、いつも僕からライターを借りていた。
タバコの箱が空になっている。ポケットを探ると、何か別の箱があった。警察を出るとき返してもらった所持品はみんなカバンの中に入れたはずだから、ポケットには小銭以外、何もないはずだった。全然覚えてなかったけれど、多分ぼんやり歩いているうちにどこかで買ったものらしい。月の光にその箱を照らしてみた。中国製の円錐型のお香のようだ。中を取り出すと、お香にはいろいろな色がついている。僕はその中から紫色のものにライターで火をつけた。そしてそれを歩道の上に置いてじっと眺めていた。お香が灰になって風がそれを吹き飛ばしてしまうまで、じっと眺めていた。跡形もなく吹き飛んでしまうと、また一つ箱から取り出してライターで火をつけた。そしてまたそれを歩道に置いてじっと眺める。歩道の隅にしゃがみ込んでいる僕のことなんて目もくれずに、人々が通り過ぎていく。夜が深まるにしたがって、通り過ぎる人も少なくなっていく。この街にも人気がなくなることがあるらしい。気がつくと夜が明けかかっていた。
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