「お前は彼女の《カレシ》なんだろう」刑事にこう言われたとき僕は少し動揺した。

「本人はイイ感じだって言ってたけど、髪はいつもボサボサだし、服だっていつも同じでだらしないだけだし、どう考えてもダサいよね。でも二人でいるときは確かにイイ感じなんだよね。別にあたしにはカンケイないけど」刑事はこのことをルナの友だちから聞いたという。僕は自分をルナの彼氏だと思ったことはないし、ルナもそのつもりだったと思う。ルナには、僕なんかじゃなくちゃんとした彼氏がいてもおかしくなかったし、実のところ、僕はそのことについてあまり考えてみたこともなかった。ルナにとって僕は、ちょっとした暇つぶしの相手だと思っていたから、ルナが僕といるとき以外に何をしていようとそれはルナの自由なんだし、少なくとも僕とルナとの関係は僕がそこまで口を出せるような関係じゃなかった。それでも女の子にあまり縁のない僕にとってはそれだけで十分だった。


 少しのあいだ街をさまよっていた。いつものようにルナがしのびよってきて、突然僕のとなりを歩いている。そんな気がしたけれど、そんなことあるはずがなかった。僕がルナが隣にいることを気づかずに歩いていると、ルナは声をかけずに僕の腕にぶら下がってきた。不思議なことにルナとどんな話をしたかはあまり覚えていない。ルナはよく自分のことを話していたけど、話を聞くたびに違っていたから、あまり深く考えないようにしていた。ただ二人で街の中を歩いているだけで、何か安心していられた。ルナが死んだということについてはあまり実感がなかった。そもそも僕にとってルナと過ごしている時間って、なんか現実離れしていたし、夢の中にいるような感じだった。ルナの存在そのものが僕が勝手に想像で作り上げてしまったもののような感じがしたし、ちょっとした御伽噺の世界だった。不意にどこからやって来て、またどこかに消えてしまう、幻のような存在だったように思う。だから実際ルナがこの世から消えてしまっても、ルナはいつも僕の中にいるし、この街のどこかを彷徨っているままだった。今までルナと巡り会えたのが運命のいたずらで、ルナに会わないことのほうがごくごく自然なことなのかもしれない。だからルナはいつまでも僕の中にいることができるし、ルナがこの世に存在していたかどうかなんて、僕にとってはそれほど意味のあることではなかったのかもしれない。僕にはそんなふうに思えた。

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