四人目の仲間

「よーし! エイジのスキルもわかったし! 早速、三人でパーティーの結成祝いなのだ! それから、作戦会議ね!」


 リコが俺とマジアの手を引いて、食堂のテーブルに向かう。


「えっ? パーティー? 僕はリコとパーティーなんか組まないよ」

「ええ〜! マジアはリコのパーティーに入ってくれないの? エイジと二人だけじゃパーティーじゃなくてコンビだし。マジアの獣車がないと、足がなくてリコ困るもん!」


「いい話を聞かせてもらった! わかった! それでは、私がそのパーティーとやらに入ろう!」


 ギルドのお姉さんかと思ったら、見知らぬ女性がいつの間にか割って入っていた。

 その姿を見て、俺は驚いた。

 ポニーテールの黒髪に切れ長の涼し気な目で、長身の北欧美人といった容姿。バンドを一緒にやっている先輩にそっくりだったのだ。


 憧れの遼子先輩に生き写しだ──。

 豊かなバストは、遼子先輩よりちょっと大きいかもしれない……。

 しばし、俺はその姿に見とれた。


「立ち話もなんだから、酒でも飲みながら話そうじゃないか」


 厚手の緑色のシャツの上に茶色の革ベスト、下は薄茶のショートパンツと革ブーツ。

 狩人のような格好をしたその女性は腰に下げていた剣をテーブルに置き、椅子に腰を下ろした。

 リコとマジアは顔を見合わせていたが、黙って女性の向かいに座った。

 俺はその女性の横に腰を落ち着けた。


 まるで遼子先輩が隣に座っているようだ……。

 こうしていると、日本にいるようで不思議な気分がする。


「君、私の顔に何か付いているのかな?」


 女性の顔をチラ見していたら、とがめられた。


「いや……、見たことがあるような顔だったので……」


「そうかそうか。まあ、そう感じるのも不思議じゃないぞ。私の顔は至るところで見ることができるからな。ははは!」


 愉快そうに女性は笑ったが、意味がわからない。


「お姉さんって、誰なの? リコ、知らないし」

「あそこ、あそこ!」


 女性がギルドの掲示板を指差した。

 すると、にわかにマジアの顔が青ざめた。

 掲示板には、確かに横に座る女性の顔が描かれた紙が貼ってある。


「なあ、マジア。あれ、何て書いてるんだ?」

「……お尋……ですよ、エイジさん」


 小声で囁かれたが、よく聞こえない。


「マジア、よく聞こえないから、もっと大きな声で言ってくれないか」

「はは! 『お尋ね者』って書いてるんだが、字が読めないとは、君は異国の者なのか?」


 本人から衝撃の正体が暴露された。

 お尋ね者って日本じゃ指名手配ってヤツだよな……。


「ふーん、リコはね、帝都の追放市民なの。お尋ね者なら仲間みたいだし」

「そうか、君はリコという名前なのか。爪弾き者同士、なんだか気が合いそうだな。わははは! で、そこの少年の名前は?」

「マジアです……」

「少年、そう固くならなくてもいいぞ。獲って食ったりしないからな。ふむ、マジアという名なら聞いたことがあるな。帝都で名を馳せる重魔術師に、同じ名があったような気がするが」

「僕です……」

「貴殿があのマジア公だったのか。こんな辺境で拝謁がかなうとは光栄の極みだな。どうかよろしくな! わははは!」


 とにかく豪快によく笑う女性だ。遼子先輩に似てはいるが、性格は全く違う。

 しかし、マジアってまだ子どもなのに、そんな有名人だったのか。

 一般人の俺とはえらい違いだな。


「では、では、新メンバーも入ったところで、作戦会議をするし! 作戦名は、う〜んとね……、『姉さんに倍返し』作戦! 倍返しだ!!!」


 仁王立ちになったリコは拳を握り締め、顎を引き、眉間に深いシワを寄せて前方を睨みつけた。


 あ〜、日本で『半沢直樹』見てたんだな、こいつ……。

 いくらすごんでも、ロリっ娘は可愛いだけでちっとも怖くないけどな。


「リコ、作戦会議の前にパーティーの結成祝いじゃなかったのか?」

「いやいや、エイジさん。その前に僕はパーティーに入ってませんけど」

「え〜、マジアが入ってくれないと予定が狂うのだ!」

「僕は気ままに各地を放浪したいんだ。リコには悪いけど、パーティー入りはお断りだね!」

「そんな〜、マジア、意地悪だし……」


 リコが今にも泣きそうだ。

 俺も、元の世界に一刻も早く戻るためにはマジアが必要だと実感している。

 何といっても、帝都で名を馳せる重魔術師らしいからな。

 身勝手な自己都合だが、ここは俺からも一つ、マジアにお願いしてみるか!


「マジア、そう言わずに、俺たちに君のその力を貸してくれ! お前の重魔術が必要なんだ! 俺たちと一緒にリコを助けようぜ!」


 マジアの所まで行き、ダメ元で肩を揺すって力強く説き伏せた。


「はっ、はい! エイジさん! わかりました! パーティーに入りますよ、僕!」


 驚くことに、マジアはあっさりと気を変えた。

 しかも、俺の顔を潤んだ目で見上げている。


 なんだ、これ!?


「やったー!!! パーティー結成だ! お姉さん、料理じゃんじゃん持ってきて!」


 半べそだったリコは、小躍りして大喜びだ。


「ふむ、晴れて四人パーティーの結成だな。酒もどんどん頼む! ははは!」


 お尋ね者のお姉さんはちゃっかりメンバーに入ってるし……。


「お姉さん、ところで名前は?」

「だから、あそこに書いていると……。ああ……、君は文字を読めなかったのか。私の名前はブラスカだ。貼り紙のとおり、お尋ね者を生業としている」


 いや、お尋ね者って職業じゃねえし。

 剣を持ってるけど、格好は狩人だし、剣士なの、狩人なの?


「ところで、君の紹介がまだだぞ」

「こいつはリコの下僕で、エイジなの。スキルが四つもあってすごいし」

「エイジさんと出会った時は、ただの小便臭い異世界人だったんですけどね。スキルが四つもあるなんて、人は見かけによらないものです」


 横から下僕だの小便臭いだの、ひどい言われようだ。

 だが、めでたい祝いの席だし、今回は許してやるよ!


「ははは、君はエイジ君か! 異世界人とはやっぱり、この国の者ではなかったんだな。今後とも末永くよろしくな!」


 ブラスカさんに背中をバンバン叩かれる。

 細身にしては力があるので、かなり痛い!

 リコが勝手に注文した豪勢な料理や酒が次々と運ばれてくる。

 支払いは全部マジア持ちだろう。


 異世界でもう二人も仲間が増えた。

 これから楽しくなるのか、想像を超える苦難が待ち構えているのか?

 右も左もわからない異世界での俺の生活は、まだ始まったばかりだ!!!




「こら! 異世界人のエイジ! 何を一人で神妙な顔をしているんだ! もっと飲め! 飲め! わははは!」

「ブ、ブラスカさん! そんなにひっつかないでくださいよ! 酒臭いですよ!」

「ブラスカさんなんて固い呼び方をするな! ブラでいいぞ!」

「ブラ!? いやいや、遠慮しときます! ブラスカさん」

「何を照れているのだ、エイジ! わはははは!」


 遼子先輩似のブラスカさんがまた背中をバンバン叩く。


「痛い! 痛いっす!」

「リコのパ〜ティ〜結成だし♫ ひっ、ひっく!」

「おい、子どもに酒を飲ませたのは誰だ?」

「いえ、エイジさん。リコは年齢的には子どもじゃありませんから。ところで、いつの間に僕はパーティーに入ったことになってるんですか?」

「自分で入るって、さっき言ったじゃないか! 何言ってんだ! マジアも飲め!」

「いや……、僕は本当に子どもなんで……! あれ? 僕、パーティーに入るなんて、いつ言いました???」


 首をひねるマジア一人を残し、他の三人は浴びるほど酒を飲み、酔い潰れた。

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