辺境防衛都市スパダ
目が覚めた。
窓から陽の光が射し込み、外では鳥のような声がしている。
獣車は停まっているようで、とても静かだ。
こうしていると、元の世界と変わらないような気がする。
うーんと唸ってから、ゆっくりと起き上がった。
リコはソファーからずり落ちそうになりながら、まだ寝ていた。
立ち上がって気付いたが、そういや、下半身がスッポンポンだった。
ズボンはリコがまだ抱きしめてるし、そもそも汚れてるしなあ……。
俺様のビッグマグナムをブラブラさせながら、もたもたしていたらドアが開いた。
「あっ、エイジさん。おはようございます!」
「あ……、ああ……、おはよう、マジア」
股間を隠さなきゃと、慌てて膝掛けを探すが見当たらない。
まあ、男同士だし、堂々としてりゃいいじゃん!
「やあ、マジア君。いい朝じゃないか!」
「もう昼過ぎなんですけど」
「あはは! そうか、もう昼過ぎなのか。マジア君は早起きだなあ!」
「エイジさん、服を買ってきたので、その小汚い粗末な物を早く隠してくれませんか」
「とってもありがたいが、失礼極まりないぞ。マジア君!」
マジアからもらった服を着てたら、リコが飛び起きた。
「臭っ! 臭っ! 何これ? リコ、なんか小便臭いし!」
そりゃそうだろうな。一晩中、俺のズボンを抱きしめてりゃな。
「ああ、リコにも新しい服を買ってきてるからね」
マジアがリコにそう告げるやいなや、リコは着ている物を全部脱ぎ捨てて素っ裸になった。
おっと……、俺はロリには興味はないぜ!
とにかく俺は慌てて顔を背けた。
「髪も顔も小便臭いし! マジア、魔法で綺麗にして!」
「うーんと、洗浄魔術式はどこだったかな?」
マジアは調度品の引き出しをあちこち開けてから、一枚の紙を取り出した。
その紙には魔法陣と文字がビッシリと書かれていた。
「はい、リコ。さっと解式して、服を着なよ」
「わかった! ソリューション!」
リコが呪文を唱えると、彼女の体が青い螺旋の光で包まれていき、すぐに光は消えた。
「うーん、さっぱりしたし!」
リコが大きく伸びをした。
と、俺と目が合った。
「エイジ、お前、リコの裸をガン見してるし」
「えっ!? 見てねーよ! ちょっと考え事をしてたから、そっち向いてても見えてねーよ」
「まあ良いのさ。下僕に裸を見られたくらい、リコはちっとも恥ずかしくないし」
「ちょ……、リコさ、下僕って……。俺って協力者じゃなかったっけ?」
「まだ協力してもらってないから、下僕で十分だし」
「もう一枚ありますから、小便臭いエイジさんも綺麗にしてあげますね。ソリューション!」
マジアが詠唱した。
ミントガムのCMみたいなポーズを取りたくなるくらい、スッキリした!
魔法ってすげー! てか、なんで昨日やらなかった! マジア!
「リコ、お前、魔法使えるじゃん」
「解式するだけなら、リコでもできるもん」
「使い捨ての簡単な魔術式の解式なら、この世界のほとんどの者はできますよ。エイジさん」
「マジ? じゃあ俺にもできるかなあ?」
「エイジさんは異世界人ですし、どうでしょう? じゃあ、これを」
マジアが一枚の魔術式を寄こす。
「炎の魔術式です。解式の呪文は同じで『ソリューション』です」
「炎って危なくね?」
「日用の種火点けに使う程度なので、危険はありませんよ」
「よし! じゃあ、やるぞ!」
俺は紙の端っこを恐る恐るつまんだ。
「ソッ、ソッ、ソリューション!」
大声で詠唱したが、何も起こらない。
「初めてだし、緊張してちょっと噛んじゃったしな。よし、もう一回! ソリューション!」
やはり何も起こらない。
異世界人には魔術式の解式はできないのか?
それとも俺には魔術式を扱う才能がないのか?
いやいや、この世界のほとんどの者ができるって言ってたし、リコにもできたし。
なんか、悔しいじゃん。
「なあ、マジア。これ不良品じゃね?」
そう訊いたそばから、すかさずリコが詠唱した。
「ソリューション!」
「わっ! 熱っ! 熱っ!」
俺は慌てて燃える紙を投げ捨てた。
「うーん、異世界人は魔法は使えないのかもしれませんね」
マジアはそう言うが、俺って何か特別な力があるから、リコに異世界まで連れて来られたんじゃないのか?
それが誰でもできる魔術式の解式すらできないなんて……。
ちょっとへこんだ。
「ねえ、マジア、見て見て! リコさ、魔術式なしでも、魔法が使えるようになったよ。フレーム!」
リコの手から火がボッと出た。
「すごいよ、リコ。どこで習得したの?」
マジアが誉めるが、リコが持っているのはチャッカマンだ。
どうやら、こっちの世界にはチャッカマンはないみたいだ。
まあ、目を丸くしているマジアには黙っておこう。
◇◆◇
マジアがくれたのは中世の町人のような簡素な服だった。
黄色いリュックを背負っているが、リコも同じような中世の町の女って感じだ。
まあ、女って言うより、女の子だけどな。
マジアだけ羽根帽子なんかキザっぽくかぶって、貴族っぽい格好だ。
「二人ともお腹すいたでしょ。食堂があるからギルドに行きましょう」
城外にある獣車置き場から離れ、マジアと街中に入っていく俺たち。
「なあ、マジア。ここって何ていう街なんだ?」
「ここは辺境防衛都市スパダです。東の辺境を守る辺境防衛隊の拠点になっている城塞都市ですよ」
防衛都市か。そういえば、大きな城門にはXの字に重ねた剣の紋章があったな。
いよいよ本格的な異世界だ。
なんかドキドキするな。
中世風石造りの家屋が左右に建ち並んでいる。
石畳の道には町人風情の人間とリコの仲間のエルフ族に混じって、甲冑を着込んだ兵士がポツポツといる。
魔王が皇帝に討伐されて地上からいなくなったせいか、みんな顔つきはのんびりとしている。
露天には見たことがない野菜や果物が山のように並べられ、荷車が往来を行き交っている。
街は平和そのものだ。
「おい、リコ。お前、追放されてるとか言ってたよな。兵士に捕まったりしないのか?」
「追放されたのは帝都だけ〜♫ 他の都市は大丈夫だから、エイジは心配しなくていいよ」
リコは鼻歌まじりで、のんきなもんだ。
と、マジアが肘で俺を小突いた。
「エイジさん、リコはそう言ってますけど、追放市民は法で守られないんです」
「それって、どういうことだ?」
「まあ、簡単に言えば、気まぐれで誰かがリコを殺しても、その人はお
「そうなのか……。ひでえ話だな」
心配になり振り向いてリコを見るが、当人は上機嫌で街の様子を見物している。
そうこうしているうちに、ギルドに着いた。
ゲームにあまり詳しくない俺でも、異世界といえば冒険者の集い場はギルドってことくらい知っている。
西部劇に出てくる酒場のような構えの建物に、俺たちは入っていった。
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