小動物

「━━条件?」


アサミは思わず、ニアールの提案を聞き返してしまった。


「あぁ。実は、新たなASCOFアスコフのパイロットが居てだね。その子を、今回のジャイアントパンダ討伐に一緒に同行させてほしい」


新たなASCOFアスコフのパイロット。

その言葉を聞いただけで、胸騒ぎが止まらなかった。


「あぁ、勿論、怖い人ではない。むしろ、仲良くしてやってくれ。その子は人見知りなんだ」


そういうことなら、全然大丈夫だ。


「分かりました。その条件、呑みます」


これで交渉成立だ。


言葉は交わさなかったが、アサミとマルコヴナは互いに目配せをすることで、今回の交渉の成功を実感した。

アサミとマルコヴナは、互いに微かに笑みが零れていた。






『早速その子に会ってやってくれ。背の小さい子だから、見たらすぐ分かると思う。ブリーフィングルームで茶でも飲んでいるだろうから、よろしく頼んだよ』


ニアールにはそれだけ言われて、これから大事な話し合いがあると言う理由で部屋を追い出されてしまった。

あたり前のことだろう。

そうじゃなきゃ、<イカロス>の大統領と<ノア>の大統領が同じ机を囲むなんてことありはしないだろうから。


「とは言ったものの……この人混みの中からどうやって探せっていうんだ……?」


<イカロス>軍事基地ブリーフィングルームには、大量の人が居た。

仕事の関係上、この場を離れることができることのできない作業員が、<ノア>にいる友人や家族と唯一、話すことのできる場所だ。


しかし、その子と思われる人物は、案外あっさりと見つかった。


何故か?

ニアールの言葉には、一つだけ特徴が言い渡されていた。

それが、「背の小さい子」ということである。


そしてその子は、ブリーフィングルームの端の方にある小さな丸机に置いてあったお茶を両手で掴み、ほっこりとした顔で飲んでいる。

正直言って、とても可愛い。

どちらかと言うと、小動物を見るときのような可愛い、という感情だ。


「な、なぁ、本当にあの子だと思うか……?」


「わ、わかんない……でも、あの子が本当にASCOFアスコフのパイロットなら、むしろ乗せたくない。私ならね」


「同感だ」


それでも、話しかけてみないことには何も始まらず、ジャイアントパンダ討伐にも出かけることができない。


その子がお茶を飲むのをなるべく邪魔しないよう、そーっと近づく。

しかし、それが仇となったか。


アサミはその子の肩をポンと叩いた。


「あの━━」


瞬間、その子は驚いて、


「にひゃっ!?」


お茶をジャグリングしだした。

完全に打算だった。

まさかここまで驚かせてしまうとは、思いもしなかった。


「ごっ、ごめんね……?」


「いっ、いえ!こ、こちらこそ、す、すいませんっ!」


言葉をつっかえさせながら、なんとか頑張って喋ろうとしている。

そんな姿が、また健気で可愛い。


そんなこの子は、アサミの豊満な胸を見て、目を輝かせた。


「もっ、もしかして、あ、アサミ中尉……ですか?」


「え、あ、うん」


「に、ニアール大統領から、き、聞きました……」


顔を真っ赤にしながら、目を飛び回らせている。

アサミと目を合わせんと、必死だ。


そして、ここまで近くに来て、やはり強く思う。


━━小さくない?


本当に、アサミと頭二つ分くらい違う。


アサミは、自分が気づかぬうちに、いつの間にかその子の頭を撫でていた。

道端で子猫を見つけたら、撫でてあげたくなるのと一緒だ。

まぁ、この時代、子猫など居ないのだが。


「にっ、にへゃあ!?」


可愛い悲鳴のお陰で、なんとか理性を保つことができたアサミは、バッと手を離した。

なんだか気まずくなって、アサミは話題を変えた。


「と、ところで、お名前を聞いてもいい?」


「そそ、そうですよね……!わ、、ラァラ・マリンスノウ、と言います……っ!」


そう言って、ラァラは頭をペコリと下げた。

うん、間違いない。この子は女の子だ。

アサミとマルコヴナは、名前によって予想が確証に変わった。


「ところで私達、ジャイアントパンダ討伐にあなたを連れて行かなきゃいけないんだけど……準備できてる?」


「へっ?ぱ、ぱんだ……?」


「「━━え?」」


まさか、聞かされてない……?

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