飛び入り参加
「それじゃあオーゲル殿、お座りになってください」
<イカロス>大統領ニアールは手を差し伸べた。
「では、失礼して……」
その指示に従うように、ふかふかのソファーに<ノア>大統領オーゲルは腰掛けた。
ふかふかすぎて、オーゲルが座った瞬間、少し跳ねたほどだ。
ここは<イカロス>の政府応接室。
大抵、ここに来る人はニアールと大事な話がしたい人だけである。
だが、そんな使い道しか無いので、あまりにも部屋が綺麗だったりする。
靴跡一つ見当たらない。
部屋は豪華な装飾品が所狭しと置いてあり、様々なトロフィーのようなものが棚に飾られている。
<イカロス>の中で一番高いものが置いてある部屋はどこかと聞かれれば、即座にこの部屋と答えるだろう。
「それで、オーゲル殿。準備は整っていますか?」
「えぇ。勿論。しかし、大丈夫ですか?ちゃんと全て搬入できるのでしょうか?」
オーゲルは心配そうな顔でニアールを見るが、心の中ではあまり心配していない。
ニアールならば、何か万全の準備をしているだろうと、どこかで確信しているからだ。
「ご心配なく。こちらをご覧ください」
”ヴンッ”
ニアールとオーゲルの間に、大きなウィンドウが表示された。
そのウィンドウの中には、<イカロス>の外側の光景、つまり宇宙からの観測カメラによる光景が繰り広がっており、その光景で特に目立つのは、何よりも大きな倉庫のようなものが<イカロス>の隣にいくつも置いてあるところだろう。
大体一つの倉庫の大きさが<イカロス>の半分ほどの大きさだったりする。
その光景を見て、オーゲルは驚きの声を小さく漏らした。
「ほぉ……これは凄い……しかし、こんな量、どうやって確保したんです?相当お金がかかっていそうに見えますが……」
「えぇ、まぁ。確かに、ココでは言えないような額にはなってしまいましたが、戦争に勝てば何ら問題はない。この投資以上の金額が約束されているのですから」
ニアールはニヤリと笑った。その光景が楽しみすぎて。
それに対してオーゲルは曇った顔をした。その光景に不安を感じて。
オーゲルの曇った顔に気づき、<ノア>が平和主義国であることを思い出した。
ニアールは話を変え、オーゲルに対してのフォローをする。
「ところで、キラーア━━」
その瞬間、応接室の扉がバンッと音を立てながら開いた。
気づかないはずもなく、ニアールは話を切り、扉の方を睨んだ。
そこには、アサミがいた。
なんだか緊張したような顔で、まっすぐ立っている。
「おい、ここには誰も入れるなと言ったはずだ。何故入れた?」
ニアールはアサミではなく、奥にいる秘書に話しかけるように言った。
「すいません、どうしても入りたいと、
「二人?」
ニアールは意味がわからなかったが、扉の向こうから、一人の男が出てきたことで、言葉の意味を理解する。
「━━君は?」
「マッ、マルコヴナ・ヤーロフと言いますッ!気軽にマルコと━━あ、すいません、マルコでいいです……」
マルコヴナは、いつもの癖で自分のことをマルコと呼ばせようとしてしまった。
このミスに、横のアサミの視線を痛いほど感じる。
(何やってんの、マルコさん!)
(しょうがないだろ!?いつもの癖で出ちゃったんだから!しかも<ノア>のオーゲル大統領もいるなんて思わずに飛び出してきちゃったからさぁ!)
そう。
ニアールに会いに来たはずが、まさか<ノア>の大統領、オーゲル・ネーズムまでいるとは思ってもみなかった。これは二人共心の中の動揺という点では同じだ。
しかし、ニアールから返ってきた返答は、思ってもみないほど笑いながら返ってきた。
「いや、面白い。では私も、マルコと呼ばせてもらおう。それで、ここに来たということは、何か用が会ってきたんだろう?」
「え、えぇ。アサミ・イナバさ━━アサミ・イナバ中尉のスノウラビットの武装、ヒート・アサシン・ナイフの改良をしようと考えているのですが、素材が足りず、代用品として、ここ最近ここら一帯の宙域に現れたという、ジャイアントパンダの牙や爪を使おうと思っているのですが……その許可を取りに来ました」
その提案に、ニアールもオーゲルも衝撃を受けた。
決して、ジャイアントパンダに挑むことに衝撃を受けたわけではない。
ジャイアントパンダがいたという事実を
(なんでバレている!?大きく公表した覚えなんて無いぞ!?)
(私も驚いているが、ニアール殿も驚いている様子だ……何故ジャイアントパンダの存在がバレたんだ!?)
驚きが隠せないが、これといって断る理由も無い。
「あ、あぁ。いいだろう。許可する」
「「ほっ、本当ですか!?」」
アサミとマルコヴナの声が重なるほど、彼らは喜ぶが、ニアールの話はまだ終わっていなかった。
「ただし、条件がある━━」
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