運命の出会い

怪しいお土産屋(?)から出てきたアサミは、しっかりとした紙袋を肘に提げながら表通りに戻っていく。

勿論、紙袋の中身は返り血トランプ兵イカレぬいぐるみが四つ入っている。


表通りでは、先程のような山あり谷ありな活気強さではなく、色々なところで色々な客が買い物をしている、至ってごく普通のだ。


しかし、アサミの出てきた裏通りと活気づいた表通り、どっちにも属したくないと言っているのか、その間でフードを被った男が、ひっそりと缶のハイボールを飲んでいる。


アサミは、何故かは分からないが、その男は自分と近しい年齢であることがひしひしと伝わってきた。

気になって、思わず声をかけた。


「あのぉ、こんなとこ・・・・・でお酒なんか飲んでて、大丈夫ですか?」


「あ?大丈夫なわけ無いら━━だろ。俺なんかに構わずどっか行ってくれ」


「呂律が回ってない……そのハイボール、もう三杯目なんじゃないんですか━━?」


「ッ!?」


アサミには少し、酒を飲んでいる男の行動には慣れていた。

タツロウと過ごしていた日々は長く、それと同時にタツロウが酒を飲んでいる姿も散々見てきた。

呂律が少しだけ回っておらず、でも、言い返すくらいの意識は残っている。そして、少し自暴自棄な口調と内容。


タツロウが酒が五杯目に突入した時の状態だ。

ただ、タツロウは酒にめっぽう強いので、一般の20代の人間なら、なんとなく三杯目ということが分かる。


「なっ、何で分かったんだよ!?」


酔いも少し冷めたらしく、完璧な呂律で言ってきた。

その際、顔の深くまで被っていたフードがはらりと落ちた。


「「あっ━━」」


お互いに気まずくなってしまった。が、この男からしたらそんなこと、どうだっていい。


目の前に突如現れた女神。

軍服の上からでも分かるスラリとした脚から、徐々に視線は上がっていき、次はその溢れんばかりの胸に目が留まった。男は、心が癒やされていくのが分かった。

そして、胸から更に視線を移すと、そのナイススタイルな彼女と目と目が合った。


(なっ、なんて可愛い顔なんだ……スタイルも良くて、おまけに顔もいい……)


そんなことを思っていると、アサミが声をかけた。


「だっ、大丈夫……?なんかごめんね?」


(しかも優しいィ!!)


男は、目の前に天使が降り立ったことを確信した。

すぐさま何か返さねばと、口を開いた。


「え、えぇ。大丈夫です。謝る必要なんて無いですよ……」


そして、男はそんな言葉をこぼしている瞬間、この女が何者か分かった。


「もっ、もしかして、アサミ・━━イナバさんですよね━━?」


「え、そうです。何で分かったんですか!?」


言えない。

<イカロス>の軍服を着ていた事が条件なのと、そのスタイルの良さから、ウワサに聞いていたアサミ・イナバということは分かった。


(胸を見て分かりました、なんて言えるか……!)


「えーっと、何でしょう、歴戦のオーラってやつでしょうかね……」


「えっ、そんな事ないですよ!」


アサミは明らかにその言葉に照れていたが、この男にそんなことを確認する余裕はない。


「━━でも、何で分かったんです?私、<イカロス>の軍の中でしか知られてないですよね……?」


確かに、それもそうだ。そもそも、自己紹介がまだだったじゃないか。


「すいません、自己紹介が遅れて。俺の名前はマルコヴナ・ヤーロフ。気軽に、マルコ・・・ってお呼びください。工業地区の、テムル社・・・・というところで働いておりまして……」


「そうなんですか!?マルコさん!?」


「!?え、えぇ。どうしたんですか━━?」


アサミとしては、何かと色々ある一日だったが、ココに来てようやく運が周ってきたかと思った。

コレは、神様がくれたチャンスだ。

アサミはその男に一歩、歩みだして満面の笑みで言った。


「あの!スノウラビットの武器って作れたりしますか!?」

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