返り血トランプ兵

お土産屋ではなさそうだが、<ノア>ならではの商品がありそうな雰囲気ではあった。

どことなく不気味な雰囲気はありつつも、面白そうと思わせるような商品が、所狭しと棚に並べられている。


「いらっしゃいませ」


メガネを掛けた寡黙そうな男が、カウンターにひっそりと立っている。

なんだか少し気まずい雰囲気を感じながらも、こちらに視線を向けている様子はないので、静かに商品選びをすることにした。




20分ほど探しているが、いざ四人分のお土産と考えると、なかなか思い浮かばない。

なにせ、商品に偏りがあることを理解してしまったのだ。

店長の趣味か、意味不明なへんてこな商品ばかりなのだ。


ハンドガンの形をしたライター、バイクの形をしたメモ帳、ブリの形をしたペン、ゴリラのフィギュア━━

上げだしたらキリがない。

そんな意味不明な商品が並んでいるお陰で、何を選んでいいのかわからないし、今更何も買わずに店を出ていくのも、なんだか申し訳ない。


しかし、強いて言えば、というものが一つだけある。

顔にスペード、ハート、ダイヤ、クローバー、つまりトランプのマークが貼り付けられた手のひらサイズのぬいぐるみのトランプ兵があったのだ。

だが、問題点としては、スペードが血のついた槍、ハートには拳に血、ダイヤにはサーベルに血が、クローバーに関しては明らかに殺意のある血のついた包丁を持っている。


いや、なんで全員にリアルな武器持たせて、しかも返り血までつけてんの!?意味がわからん……


ただ、一番マシなのがこの返り血トランプ兵であり、しかもトランプのマーク的にまさかの四種類。

我らがアサミ、テイム、ニーナ、マヒルと人数が奇しくも同じなのである。


(か、買うしか無いっての?この返り血トランプ兵イカレぬいぐるみを━━?)


恐る恐るその中のスペードのぬいぐるみを取ろうとする。

なんだか、本当にこちらのことを槍で突いてきそうで怖い。


何故かぬいぐるみを取ろうとしている手が震えている。


そして、手が触れそうになった瞬間、一気に手が加速し、ぬいぐるみを手にした。


(ふぉ、フォォォォォ!!)


流石に声を出して叫ぶことはできないため、心の中で叫んだ。

怖いと言うより、手に持ってみるとなんだか少し可愛くも見えてくるのがなんだか不思議だ。

もしかしたら、それこそがこの店にこの返り血トランプ兵イカレぬいぐるみが置かれている所以ゆえんなのかもしれない。


そのまま残り三つのぬいぐるみを全て抱きかかえ、カウンターに持っていく。

本当に生きているか不安になるレベルの店長が立っているが、本当に大丈夫なのだろうか。


「あっ、これ、本当にお買い上げですか?」


急に喋りだしたと思ったら、そのメガネからは伝わってこないほどの図太い声で、顔には出さなくても心の中でめちゃくちゃビビっている。


「あっ、はい……どうしたんですか?」


「いえ、これ、買う人によって違う商品に見えるんですよ。精神的悪がある方はかわいい魔法少女に。精神良好の方はトランプ兵に見えると思うのですが……」


「あっ、えっと、どういうことですか?」


まるで意味がわからなかった。

この男の言っている意味である。


「つまり、端的に言わせていただきますと、心のお綺麗な方には魔法少女、心の汚い方にはトランプ兵に見えるということです。信じてくれなくてもいいですが……」


「あっ、えっと、私は━━」


しかし、その男は口に人差し指を当てた。

それを見ていたアサミは、黙るしか無かった。


「その先は言わないでください。あなたのような軍人であれば、何に見えているのかは大体わかります。四つも購入されるのでしょう?あなたがどんな人柄か分かります」


「━━?そうですか?じゃあ、か、買います」


「ご購入ありがとうございます」


黙々と会話が進んでいる。

でも、悪い気はあまりしなかった。

何故かは分からないが。


「では、四点で4000円です」


「よっ!?」


思わず驚きのあまり声が出てしまった。

まさか、一つ千円もするとは……

しかし、カウンターに商品乗せて値段見てやっぱやめますは最早できる空気感ではない。


アサミは返り血トランプ兵イカレぬいぐるみ4つセットを、無事購入した。

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