猪突猛進の救世主

”ガシャァァン”


虚しくも金属音が静かな宇宙で鳴り響いては、どこかにその音は吸い込まれていく。

その金属音が消えた頃には、ナイトモスキートの胸にくっきりと凹みができていた。


「おぉ、やべぇ。ちょっと目の前が凹んできたな……」


バンディックは、微笑しながら呟いた。

実際、バンディックの目の前のコックピットモニターが凹んでおり、実はさっきから八割ほどモニターの画面が割れていて見えていない。


そろそろコックピットが潰されるのも時間の問題だろうか。

ASCOFアスコフのバッテリーもそろそろ無くなってしまいそうだ。


ASCOFアスコフが右腕を振りかぶり、そのまま勢いを乗せて殴りかかろうとする。


しかし、バンディックはその拳を左手で受け止めた。

ほとんど使い物にならない左腕も、盾くらいにはなってくれるものだ。


そして、敵ASCOFアスコフの拳を受け止めたまま、今度はバンディックのナイトモスキートが拳を振りかざした。


きっと、コレが最後の攻撃になるだろう。


このパンチが通ってもし敵の動きを止めるか殺すかできなければ、こちらの死はほぼ確定しているようなものだ。

バンディックはもう、死の覚悟をしていた。


「これで、最後だァ、侵略者野郎」


そして、最後の力を振り絞って殴ろうとした、その時。


気づいたら先程まで目の前にいた敵ASCOFアスコフが消えていた。


「━━ッ!?」


何が起きたか分からなかった。

というか、今もわかっていない。


先程まで握っていた敵ASCOFアスコフの拳とその先の肘までの腕だけを、気づいたら握っていた。


困惑する中、右耳に爆発音が鳴り響いた。


”ボォォォォン”


「なんだ……?」


その爆発の煙の中から、一機のASCOFアスコフが出てきた。


知っているASCOFアスコフだ。

あれは、グラマスの乗っていたクラッシュライノスだ。


ということは、さっき爆発したのはバンディックが先程まで戦闘していた敵ASCOFアスコフであるということだろう。


「あーあ。結局取られちまったか……」


口ではそう言いつつも、助けられたということもあり、バンディックからは笑みがこぼれていた。


「大丈夫か?━━なんか、ボロボロだが」


「あー、大丈夫だ。何とかな」


「……なら、いいんだが。それより、敵のASCOFアスコフを捕獲したんだが……確認してくれないか?まだクラッシュライノスに予熱が残ってて、危ないかも知れないからな」


『それより』で、人の安否の話題を終えてしまうところがグラマスらしくて、なんだか急に安心した。


「ありがとう、グラマス。その……さっきはゴメンな、冷静になれなくて」


「いや、いいんだ。俺も、流石に無慈悲が過ぎた。悪かった」


お互いに笑みをこぼしながら、捕獲できたという敵ASCOFアスコフの元までバーニアを吹かしながら移動した。






「あ、あった」


グラマスがそう言うので、バンディックもグラマスのいる方向にASCOFアスコフの顔を向けた。

すると、本当にASCOFアスコフだったのかと思ってしまうほどの四肢がもがれたASCOFアスコフだったものがフワフワと浮かんでおり、そこらへんのデブリにロープで巻き付けられている。


「よし、回収するぞ」


グラマスがそう言った瞬間、全体チャットに聞いたこともない声が聞こえてきた。


『はははははっ、待ってたぞ。いるんだろ?』


頭はもぎ取ったはずなのに、何故こちらに来た事がわかるのだろうか。


(……サブカメラか)


「俺らを待ってたって━━?」


『いいか、一つだけ言わせてもらうぞ。俺はお前らに捕まる気・・・・なんて無い《・・・・・》。だから━━』


「!?まっ、待て!」


この敵、何を考えているかが段々分かってきた。


Wake Up目覚めよ!!」


”ドガァァァァン”


敵のASCOFアスコフは、盛大に爆発した。

いくつもの破片が飛び散り、広い宇宙にパーツが散乱する。


別に誰かが攻撃したわけではない。

クラッシュライノスの熱が周って爆発したわけでもない。


「━━自爆……だとッ!?」


そう。

敵は、自爆したのだ。


この光景を見て、バンディックは思う。


「なぁ、これ、<イカロス>の連中がこんな事できると思うか━━?」


本当に、<イカロス>のASCOFアスコフが、攻めて来ていたのか━━?

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