剛腕の死神

一斉に襲いかかってきた三機の正体不明のASCOFアスコフは、一機はバンディックのナイトモスキートへ、もう残りの二機はグラマスのASCOFアスコフへ向かっていった。


「明らかに俺が警戒されてるな、ハハッ」


こちらに向かいながら、敵ASCOFアスコフは背中から取り出した銃を構えた。


(あの型……テムル111初期型か?)


テムル111初期型。

初期型と言われるとテスト用かと思われるが、れっきとしたテムル社の製品である。


テムル555(連射式アサルトライフル。連射力と高火力で、高い評価を得ている)の元となった武器であり、テムル555にどのようなスペックでも少しばかり劣ってしまうが、テムル111初期型を採用する理由はそのコストにある。

なんと、テムル555の半分ほどの値段で買えてしまうのだ。


コスト重視の量産型なら、テムル111初期型を採用していても何らおかしいことはない。




銃を乱射し、目の前の光景に言葉が出ない。


「おいおい、クラッシュライノスを舐めるなよ。効かねえぞ、こんなヘボい弾」


クラッシュライノスと呼ばれるそのASCOFアスコフは、グレーベースのボディに、胸から下半身に斜めに黒い雷が走ったようなカラーリング。

全体的に筋肉質な見た目をしており、特に掌は通常のASCOFアスコフよりも二倍近く大きい。


そしてそんな手のひらでテムル111初期型から放たれた弾丸を、全て受け止め、弾き返していた。

クラッシュライノスの掌に、傷は見当たらない。


動揺しているであろう敵ASCOFアスコフの元に、クラッシュライノスは近づいていく。

正に剛腕の死神である。


「クソッ、二人がかりなら勝てるはずだ、ヒート・ソードで行くぞ!」


「了解ッ!」


二機のASCOFアスコフは、腰のあたりからヒート・ソードを取り出した。

しかし、クラッシュライノスにそんな事は関係ない。


向かってきたASCOFアスコフ二機の頭を、片方ずつの腕で掴んでいた。


そしてそのまま二機のASCOFアスコフの頭同士を掌の力とともにぶつけ合った。

二機のASCOFアスコフの頭は弾けたように潰れ、コックピットルームもきっと衝撃は届いているだろう。


クラッシュライノスは左側のASCOFアスコフから手を離し、空いた左腕を、右手で頭を掴んでいたASCOFアスコフの胸に突っ込んだ。


”ガシャァァン”


背中から腕が飛び出し、その掌には凹みきったコックピットルームを握っている。

それをそのまま握りつぶした。

クラッシュライノスの掌から、コックピットルームを潰したせいか、煙が出ていた。


「残念だったな。この国の宙域に入った時点でお前らの負けは確定している。━━ヤガー・オーチは、優秀なパイロットだったんだぞ……」


グラマスの頭に段々と血が上ってきた。

怒りの限界点が見えてきた。


「仲間が目の前で死んで悔しくないのか、だと?……悔しいに決まってるだろ。しかも、戦士で片付けられるにはなんとも皮肉なやられ方をしたよなぁ……?」


その怒りは、全体チャットに耳を傾けていた敵ASCOFアスコフのパイロットにも伝わってくるほどだった。


「奇襲なんて汚いやり方して、逃げられると思うなよ?」

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