戦場への変化

今、<アポロン>の周りをちょうど半周したくらいだ。

しかし、どの機体にもレーダー反応は無い。

本当に自動防衛システムがレーダー反応を拾ったのか不思議なほどだ。


痺れを切らしたのか、ヤガーが言葉を発した。


「……なぁ、本当にいるのか?これだけ捜索しているのに見つからないのは、いないか神隠しにあったかくらいじゃなきゃとてもじゃないが理解し難いぞ?」


「ヤガー中尉、そう言わないほうがいいですよ。警戒を怠るな、なんてずっと言われてたじゃないですか」


「━━それもそうだな。すまなかった。ははは」


こんな笑い話で済んでいるが、敵にあったらこうはいかないだろう。

誰もがそう思い、ただ<アポロン>の周りを巡回していくのだった。






「本当に出ないぞ?」


ヤガーがまたも言葉を発した。

しかし、先程と帰ってくる答えは違かった。


「えぇ、ここまでいないと怖いですね……そろそろ<アポロン>を一周してしまいますよ?」


「あぁ。━━本当にレーダーに反応なかったよな……?」


「反応どころか、視界に<アポロン>以外何も映ってるの見たことありませんよ」


ヤガーは冷や汗を垂らした。

本当はさっきからずっと後ろを着いてきてるのではないか。

そんな考えになるまで精神がすり減っている。


ASCOFアスコフに乗れると聞いて、最初は、手柄でも立てたら勲章ものだ、なんて考えていたがこんなにも命の危険と隣り合わせだと、気が狂いそうになる。

今すぐにでもナイトモスキートから降りたい気分だった。


そう、ここは仮想空間ではない。

本当の戦場に身を投じたら、仮想世界ではベテランパイロットでも、ここ・・ではただの兵士である。


ヤガーは恐る恐る後ろを振り返った。

本当に後ろにいると、一瞬考えてしまった。


「はぁっ、はぁっ」


息が切れている。

本当に後ろにいたらどうしようと、そんな後ろ向きな考えばかりが、頭から離れない。


そしてナイトモスキートが完全に後ろに向いた瞬間。


”ボォォォォォォン”


爆発音が静かな宇宙に鳴り響いた。


「!?ど、どうした!?ヤガー中尉?ヤガー中尉!?」


どれだけ呼びかけても、反応がない。

ヤガーがいた場所をバンディックが振り返ると、ボロボロになり、爆散したヤガーのナイトモスキートが浮いていた。


「グラマス!敵襲だ!」


「あぁ、分かってる」


「!?お前、何でそんなに冷静になれるんだよ!ヤガーが死んだんだぞ!?」


「━━分かってる」


グラマスのその冷めた返しに、バンディックは、思わず声を荒らげて、グラマスの機体の肩を掴んだ。

グラマスの機体が少しその衝撃によって揺れた。


「てめぇ……!いい加減にしろよ!人の心も忘れちまったのかよ、てめぇはよォ!?」


「落ち着け。今は━━」


「落ち着いてられるか!仲間が死んだんだぞ!?何も思わないのかよ!?」


グラマスは少しずつ苛立ちが溜まっていき、肩のナイトモスキートの手を振り払った。


「今!ここは!<アポロン>宙域・・・・・・・・から戦場・・に変わったんだぞ!?冷静に対処できなくてどうする!?第一、冷静さを欠くことこそ敵の奇襲の狙いだった場合、まんまと罠にはめられてるってことになるんだぞ?」


「ああもうわっかんねえ!」


バンディックは機体の中でヘルメットを投げ捨てた。

心の底から、敵を殺したくてたまらなくなっていた。


そんなバンディックを背に、警戒しながら全体チャットをオープンし、周りにいるはずの敵に向かって言い放った。


「このまま隠れていても無駄だ!大人しく出てきたらどうだ?このままじゃお前らも不便な事ばっかりだろ?」


すると、ふわふわと浮かんでいたデブリの中から、ASCOFアスコフが出てきた。

それも三機もだ。


「うへぇー、お前ら、ただの偵察できたわけじゃなさそうだな」


敵は無言のまま、手に持っていた剣のような武器の熱圧縮装置のスイッチをオンにした。


「チッ、ヒート兵装かよ……!」


グラマスは舌打ちしながら自分の機体の熱圧縮装置をオンにした。

その瞬間、敵三機が一斉に襲いかかってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る