責任感が与える物と責任感に押し潰される者

軍事施設の中で会見を見ていたアサミ達にも、大きな歓声とその衝撃が伝わってきた。

アサミはこの会見を見て、タツロウの言葉を思い出した。


ASCOFアスコフとか言ったか、アレ・・は戦争の道具だ……』


「こんな事に……!戦争なんかにしたくなかったのに……!」


ふと気がつくと、アサミは目から涙をこぼしていた。

悔しかったのだ。


タツロウの元に戻るために、こんな事にならないように頑張るつもりだったのに。

テイムに比べたら、そりゃ努力した時間も労力も少ないはずだ。

それでも、自分なりに頑張って頑張って頑張って。


それなのに━━


そう思うだけで悔しくて、自分に怒りの感情が湧いてきて、涙が出てきた。

溢れて止まらなかった。


そのアサミの頭の上に、手の感触がそっと添えられた。

温かい。

髪があっても伝わってくるこの温かさ、どこかで感じたことがある。

そんな気がした。


頭の上に、手が乗った状態が数秒続いた後、声が後ろから聞こえてきた。


「俺らがやってきたことは無駄なんかじゃない。自分ばかり責めるな。俺らは正しいことをしてきた。ただそれだけなんだから」


テイムの声だった。

テイムに撫でられたこともないのに、何故かこの温もりは知っている。

一体、どこでこの温もりを感じたんだろうか。

分からないけど、今はただ━━━━


ずっと、こうしていたい




「あのぉ、オレの前でイチャつくの止めてもらっていいですか?」


ニーナが遠目からそう言った。

その言葉でアサミは我に返り、テイムの手を回避するように前へと跳んだ。


「な、なにするんですかっ!?」


「いや、だって……慰められるかなと思ってさ」


「なッ!?」


そのやり取りを傍観していた立場のニーナは、その光景を見て思う。


(ツンデレ━━?VS天然━━いや、最早エスパー。怖い恋模様になっちまったな、これ)


そのやり取りはニーナがひっそりと姿を消しても続いていたという。

しかし、テイムのおかげでアサミの強すぎる責任感が消えたのも、また事実である。






この会見によって、世界が揺らいだ。


それはまた、<アポロン>でも同じこと。




<アポロン>、ファクトリー内━━━━


「なぁ、聞いたか?<イカロス>がこの国・・・に対して宣戦布告してきたこと」


「あぁ。嫌でも耳に入ってるよ。しかも噂では、わざわざ宇宙平和条約をピンポイントで解除してきたんだろ?面倒な話だよな。気性の荒い奴らは嫌いだよ。しかも、それが国単位なら、なおさらね」


二人の男が、声を潜めて会話する。


目の前には、大きな機械が視界を埋めるほどに広がっている。

この場には<アポロン>でも有数の技術者が集い、そしてその技術者達全員がその機械に視線を向けている。


そしてその機械が突如、


”プシュゥゥゥゥ”


という音を出しながらまるでドアのように開いた。

中から人が出てきた。

男だ。

無愛想な青年という感じで、笑顔は何一つ感じられない。

しかし、額の汗は中でどれほどの努力があったのかを物語っており、ただの無愛想な青年という感じではなかった。何より、彼の服は宇宙できるようなパイロットスーツを着用していた。


タブレット端末を持った男が驚いた顔をしながら、機械から出てきた男の顔を二度見三度見した後、興奮状態で口を開いた。


「じ、17連勝!?あ、あの紅蓮の虎に!?ありえない!!」


この技術者以外にも、「そんなにか!」と、紅蓮の虎・・・・というなにかとの対戦成績を称賛する声が相次いだ。


「す、凄い!グラマス・パナ・ゴーマス少佐!一体、どうやったんだ!?」


グラマス・パナ・ゴーマス。


それは、これから『剛腕の死神』と恐れられる<アポロン>最強のパイロットとなる男である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る