世界が揺らぐまで

「本日、私がこの場に現れ、こうして会見をしているのは他でもありません」


画面の中も外も沈黙が広がった。

わずか数秒の間に、画面の前にいる人々は思わず息を呑んでしまった。


「|昨日(さくじつ)、我々の重要機密であるASCOFアスコフが街中で戦闘をしていたことは、皆さんも御存知でしょう。第三地区に住んでいて、実際に避難した人。第三地区のすぐ近くに住んでいて、戦闘を間近で見ていた人。沢山の情報が口々に飛び交っていることでしょうが、本日は、私がこの場で全ての真実を伝えるべく、このような場を設けさせていただきました」


『真実』という言葉に、画面の前の人々は動揺を隠せなかった。


ニュースやネットだけでなく、アンダーネット(裏情報。政府で管理しきれていないネットサーバー)でのASCOFアスコフの情報も全て政府で管理、ストップを掛けていたので、今日、何も知らない国民がすべてを知ることになるというのは、大きなことであった。


「ではまず、昨日(さくじつ)何があったのかの説明をさせていただきましょう」






「ついに始まったな」


画面の前にどっしりと構えて座るニアールはそう言葉を漏らした。


近くで茶を用意していた秘書の一人である男がその言葉に反応した。


「何がですか?」


「ピーターの会見だよ。今日、この男の手によって全国民に全ての真実が知れ渡る。━━いや、すべての国、だろうな」


どこにどの国のスパイがいるかわからない。

ましてや、公共の大画面モニターで会見をしようというのだ。

他の国に情報が漏れないわけがないだろう。


(まぁ、その覚悟の上での会見なんだがな)






「まず、戦闘してきたASCOFアスコフの出どころ━━つまり、どの国が攻めてきたのかは、もう皆さんお分かりの方もいるかと思われます。攻めてきたのは、<アポロン>のASCOFアスコフです」


画面前のざわつきがおおきくなった。

それは、全員の頭の中に、一つの考え・・・・・が出始めたからだ。


「そして、<アポロン>は、我々に敵対の意思を見せています。ですが、安心してください。我々には、ASCOFアスコフがあります。ご存知でない方々に説明させていただきますと、ASCOFアスコフとは、言わば戦争をするための兵器。戦車や戦闘機だと思ってもらって構いません。そして、我が国にはASCOFアスコフの素晴らしいパイロット達が多数います。後は、言いたいことはもうお分かりでしょう」


画面前の誰もが、先程までの考えが現実的になったことを悟った。

そして、受け入れる準備ができた人とできていない人の差が既にでき始めていた。


「我々は、我が国は、決して<アポロン>なんかに屈しない!今こそ、この国の創造された意味を受け止め、立ち上がるときです!我々は<アポロン>に対し、宇宙平和条約を、無効にする!」


画面の前の誰かが、叫んだ。


「よく言った!ピーターァ!戦争だァァ!」


それに呼応するように、次々と画面の前で雄叫びを上げるものが増えた。


「そうだ!戦争になったら、<アポロン>なんかに屈することはない!」


「あぁ!何より、俺らの国には最強のASCOFアスコフがふたつもあるんだろ!?負けることなんかねぇよ!」


”ワァァァァァァァァァァ”


それは雄叫びから次第に歓声へと変わっていき、この瞬間、<イカロス>の半数以上の国民が団結した瞬間であった。

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