<イカロス>奇襲 其の五

テイムの戦闘が終わった頃。

アサミは未だに戦闘を続けていた。

何より攻撃する隙がない。


「くッ!」


常にヒート・スピアーでの突きかなぎ払いをされて、避けるのに専念するので精一杯だ。

スノウラビットの機動力であれば避けることは不可能ではない。

だが、少しでも油断すれば命を落とす可能性が十分にあるという緊張感。


それだけで十分手元が狂う。


そう思っている間にも、ヒート・スピアーの先端が目の前に現れた。


「わっ!」


スノウラビットの右足に着いている小型バーニアを全力で吹かし、ゲルクの攻撃を避けた。


「ワンパターンな行動だ━━!」


「えっ!?」


ゲルクの声が聞こえると同時に、機体内外に大きな衝撃が走った。


ナイトモスキートの足蹴りが見事にスノウラビットの腹部に刺さり、スノウラビットは吹き飛んだ。


バーニア制御は最早手遅れであり、スノウラビットは住宅に突っ込んだ。

その家は半壊、いや、全壊。


バーストタイガーほどではないにしろ、スノウラビットの装甲の厚さは相当なものであり、蹴られたくらいでは機体にはほとんどダメージはない。

少々凹みができたくらいだ。


その家から這い上がるようにして起き上がる。

すると、目の前に写ったのは紛れもなく槍を前に突き出しながら突進してくる敵ASCOFナイトモスキートの姿だった。


後ろはボロボロになった家があり、しかもそこに機体がほとんどハマっている状態だ。


後ろに避けることも、左右に避けることも難しい。

上に飛ぼうにも、時間が足りない。


(クソッ、もう少し早く気づいていれば……!)


今はタラレバなど考えている暇はない。

ここからの打開策。


━━━━アレ・・を使うしか無いのか?


スノウラビットを整備していた総整備長の言葉が頭の中をよぎる。


『いいか?あのシステム・・・・・・はまだ敵に知られていない重要なシステムだ。もし使ったら機体データが敵国に送られて、即座に対策なりされるだろう。だからこそ、それを使わなくても勝てるような戦況を作り出せ』


「……ごめんなさい、総整備長ハーモックさん


そのシステムを使うよう、スノウラビットに命令の準備をした。

そして、逆手持ちでヒート・アサシン・ナイフを構え、突進してきたナイトモスキートに向かって一閃、斬りかかった。


しかし、ミスなのか、ナイフでは間合いが足りていない場所を斬ろうとしている。


「馬鹿めッ!そんなちっさいナイフで、届くわけねえだろ!この間合いなら、ヒート・スピアーのほうが先に敵に届くッ!」


「それはァ!!」


その時、ナイトモスキートの体の目の前をヒート・アサルト・ナイフが突っ切る瞬間、ヒート・アサシン・ナイフが煙を吹き出した。


すると、ヒート・アサシン・ナイフの剣先が伸びた。


「なッ!?」


そのままナイトモスキートの腹に伸びた剣先が見事に刺さった。

コックピットの手前で刃が止まったのが不幸中の幸いといった感じだが、機体に大幅なダメージが入ったことは確かである。


そして、チャンスであることも確かである。


ここならヒート・スピアーが確実に届く範囲だ。


「ここだァ!!」


ヒート・スピアーを前に突き出した。

しかし、スノウラビットの姿は既にそこにはなく、何もない場所にヒート・スピアーを前に突き出していた。


「どっ、どこに消えたッ!?」


”キィィィィィィィ”


よく耳を澄ましてみると、スノウラビットのバーニア音が聞こえてくる。

しかし、360°どこを見渡してもスノウラビットの姿は見えない。


速すぎて見えない。


いつの間にか腹に刺さっていたはずのナイフもどこかに消えていた。

徐々に近づいてきている━━そんな気がする。


「うァァァァァァ!」


最早訳がわからなくなり、感情に身を任せ、ゲルクはヒート・スピアーを振り回した。


”ガシャァン”


数秒後、ナイトモスキートが揺れた。

ゲルクにも衝撃が走った。その衝撃から、全身に痛みが走った。

腹から流血もしている。


そして、腹から尖ったものが飛び出ている。


ヒート・アサシン・ナイフがナイトモスキートに刺さっていた。

それに気づいた瞬間、ゲルクは吐血した。


「かはッ!━━━はぁ……はぁ……俺も……終わりか」


体がどんどん熱くなっていく。

きっと熱圧縮機構のせいで体が熱せられているのだろう。


「エレン……ビルーク……俺も今から……そっちに行くからな……」


そうして目を瞑ろうとすると、ファウルクスの姿が遠くに、すごく遠くに見えた気がした。


「なんだよ……お前も待っててくれたのかよ。ったく……俺も今から……」


━━そっちに行くからな……

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