<イカロス>奇襲 其の四
あの手榴弾の中に詰まっているのはただの爆薬ではなく、ショットガンに使うペレットと火薬が大量に詰まっていると思われる。
それは、バーストタイガーの胸部に、小さな丸い凹みが沢山あるのを見れば、安易に中身が想像できた。
テムル222(ショットガン)は<ノア>のテムル社製だが、裏ルートを使えば手に入れるのは造作もない事。
そう考えれば、幾度となくテムル222を使ってきたテイムにとっては、馴染みのある凹み方だった。
(中身はペレットか……)
リボウルの機体が使っている手榴弾は、「ペレット式火薬爆弾」、その名も「ペインボム」。
名前にセンスはないが、れっきとした兵器であり、何よりリボウルの機体━━いや、『ペインホッパー』の最大の特徴である。
奇襲としてペインボムを使い
リボウルの戦い方は全てが理にかなっており、練りに練られた作戦の数々、そして機体性能を最大限に生かした戦い方。
与えられたものは全て使う、これがリボウルの戦い方の全てだ。
しかし。
ペインボムを使ってもあのバーストタイガーという化け物は機動性が下がったどころか、ふらつきもしない。
当たりどころが悪かった?いや、ありえない。一つのペインボムに一体どれだけのペレットを入れていると思っているんだ。
ということは装甲が硬すぎるということなのだろうか。可能性はある。何より、バーストタイガーには『マーズアイアン』を使っていると聞いたことがある。
リボウルはふと我に返り、苦笑した。
長々と考えていて、リボウルはなんだかバカバカしくなってきた。
相手は<アポロン>で『紅蓮の虎』なんて異名がつく戦闘狂だ。敵う訳もなかったのだ。
「一体、いつから期待してたんだろうなぁ……」
なんだか急に憎く見えて、バーストタイガーを
するとどうだろう。
バーストタイガーはいつの間にか右手で
(あっ、あれはまさか、バーストフレイマーかッ!?)
バーストフレイマー。<アポロン>の軍の中では有名な兵器の名称となってしまっていた。
バーストタイガー専用武器。その極悪非道な火炎放射器は、一体どれだけの犠牲を生んだのか。
何より。
逆関節の脚を採用しているペインホッパーに熱を与えてはいけない。
何故か?
逆関節は装甲が薄くなってしまう部分であり、熱に弱いからだ。
リボウルは焦った。
━━逆関節に熱を与えれば間違いなく敵の
それくらいのこと、テイムでも思いついていた。
バーストタイガーが銃を構えた瞬間のことであった。
リボウルの
そのままその手榴弾が手から離れていく。
かなりの速さでバーストタイガーに近づいてくる手榴弾に対して、銃を構え直した。
「━━!?ま、まさかァ!?」
バーストタイガーは銃を構えたと思ったら、ペインボムに向かって一発、弾を放った。
”パァァァン”
瞬間、辺りにまばゆい光が放たれ、煙が充満した。
「い、一体、何が起こった!?」
バーストフレイマーの炎は見えなかった。
それに、ペインボムが爆発しただけではここまでの閃光と煙は発生しない。
ここで、何故かバーストタイガーの報告書読み合わせ回のことを思い出した。
脳が必要な情報として提示したのだろうか。
『バーストタイガーの専用武器、バーストフレイマーの本体上部には炎を放射する「火炎放射状態」と炎を一点集中させ火球として発射する「火球発射状態」を切り替える回転式ダイヤルが存在する』
━━バーストタイガーが構えていた武器に、ダイヤルはあったか?
「━━不味いッッ!!」
(あの武器は、バーストフレイマーではなく、テムル222だったのか!)
すると下から、煙の中から影が現れた。
「そこかぁ!!」
リボウルはとっさの判断で影に向かって残りのペインボムをありったけ投げつけた。
”ボァァァァァン”
しかし、とてつもない爆発とまたしてもまばゆい光が放たれただけである。
その熱によってペインホッパーの脚の関節が完全にショートした。
ペインホッパーは膝から崩れ落ちた。
「動けッ!動けよッ!」
しかし、呼びかけたところでペインホッパーの脚は完全に動かなくなった。
「残念だったな」
声が聞こえてきた。
テイム・プロスルの声だ。
「お前が必死になって手榴弾を投げつけていたのは俺のテムル222だ。そりゃ、ペレットが大量に詰まった物同士が火薬付きで爆発したら、こうもなるさ。自分で言ってたよなぁ?戦場で油断は禁物だってさ」
「ぐッ、紅蓮の虎ァァァッ!━━━━ッ!?」
ペインホッパーが大きく動き、ふわりと浮いた。
「終わりだ。害虫が」
バーストタイガーは背中からバーストフレイマーを取り出すと、ダイヤルを思いっきり捻った。
これで火球発射状態となった。
テイムは、空中でジタバタと動いているペインホッパーに容赦なく火球を打ち込んだ。
火球は見事命中し、少し吹き飛んだ後、
”ボォォォォォォォォォンッッ”
盛大に爆発した。
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