<イカロス>奇襲 其の一

「異常はッ!?」


「確認できません!」


「なら、作戦を続行する!」


今、<イカロス>第三地区は、<アポロン>のASCOFアスコフ三機が闊歩している状態である。

乗っているのは勿論、リボウル・ハルバードを筆頭に、ゲルク・テラフィ、ファウルクス・ジョウツの三人である。

ゲルクとファウルクスは量産型ASCOFアスコフ、ナイトモスキートに。

リボウルの乗る機体は、濁ったような緑のカラーリング、太くて目立つ逆関節の足、手にはヒート・スピアー、腰には大量の手榴弾が巻きつけられていた。

筋肉のようにすら見える胸部の奥で、リボウルはどっしりと身構えている。


「おい、熱圧縮装置の電源は入れているか?いざというときのため、オーバーヒートしてでもいいから電源を入れておけ!」


「「了解!」」


”キィンッ”


静かになった<イカロス>第三地区に、ヒートスピアーから鳴る熱圧縮装置のスイッチの金属音が響き渡り、その音に息を殺していた、避難し終えていた住民たちは恐怖した。






「点検終了!!いつでも行けるぞ、バーストタイガー、スノウラビット!」


「「了解!」」


体のいかつい総整備長の報告を聞き、息ぴったりに応えるアサミとテイム。

その二人の応答は、どこか問題のなさそうな、堂々とした声だった。


「大丈夫ですかね?あの二人」


ふわふわと作業員一人が総整備長に近づきながら言う。


「大丈夫じゃなきゃ、この国は終わりなんだよ。俺らがしてやれんのは、ここまでだ。あのASCOFアスコフを生かすも殺すもパイロット次第。俺らは、後はもう願うことしかできないのさ」


その言葉の重みに当てられたのか、その作業員は何も言い返すことなく、ただ黙って2機のASCOFアスコフを見つめた。

そして、口から思わず言葉が出ていた。


「綺麗ェ……」


戦場において、その言葉は場違いのようにも取れるが、実際はそんなことはない。

綺麗に見えて当然だ。


この国の希望が今、動き出さんとしているのだから。




「アサミ・イナバ。スノウラビット。出ます!(これ一回言ってみたかったんだぁ……)」


「テイム・プロスル。バーストタイガー。出るぞ!」


2機のASCOFアスコフが、街に向かって今、軍の倉庫を出て歩き出した。


「俺は第三地区に最短距離で移動。スノウラビットは第四地区を回って後ろから奇襲をかける。そうすればスノウラビットの機動力なら、同時に挟み撃ちできるはずだ。何かあるか?」


「いえ、特に無いです!プロスル大尉の指示に沿って活動開始します!」


「では、作戦開始だ!敵位置補足には対ASCOFアスコフ用サーモレーダーを使え!」


「了解ッ!」


アサミはそう言い残して、スノウラビットのバーニアから火を噴出させた。


”キィィィッ”


ものすごい勢いとスピードで、あっという間に第二地区の半分を通過していた。

その様子を見ていたテイムも、バーストタイガーの背中から火を吹かした。




「敵勢力、未だ確認できません」


「クソッ!」


リボウルは、思わず手元のコントロールマウスを殴りつけた。

すごい勢いでコントロールマウスが左右に揺れ、時間が経つと段々元の位置に戻っていく。

その様はまるでサンドバッグを殴っているようであった。


「何故!バーストタイガーが現れない!こうなったら、この地区まるごと火の海にすることも考えねばならない!」


そういった矢先、全体チャンネルから声が飛んできた。


『お探しの物は━━』


「ん?なんだ?」


『俺でしょうかァ!?』


その声がすべての機体からコックピットルーム内で響き渡り、突如、ビルの間から赤と金色のASCOFアスコフが飛び出してきた。


その腕には勿論、アーム・ヒート・クローが。

しかし、煽られても突然のことであっても、リボウルは平常心を崩さない。

常に冷静でいることこそ、勝利への第一歩なのだから。


「ゲルク!ファウルクス!戦闘準備ィ!」


言いながら、華麗な動きでバーストタイガーのアーム・ヒート・クローの攻撃を躱した。


「へぇ、少しはやるじゃねえか」


「<アポロン>の軍隊長、舐めてもらっちゃ困るな」


その会話の間、ゲルクとファウルクスが徐々にバーストタイガーへと、ヒート・スピアーを構えながら向かっていた。

ビルの影からナイトモスキート2機が飛び出し、バーストタイガーにヒート・スピアーで同時に突きをする。


「これで終わりだ!バーストタイガー!」


このまま行けば、すぐさまバーストタイガーにスピアーの先端が刺さってしまう。

しかし、バーストタイガーは怖いほどに動じない。

むしろ、中に乗っているテイムは、密かに笑っていた。

そして、


「今だ、アサミ・イナバ」


その声と同時に、ナイトモスキート2機の目の前に突如として白い機体が現れた。

速すぎて、いつ介入してきたかすらもわからないほどだった。

ナイトモスキート2機は既に跳びながらバーストタイガーに向かって突進をしていたので、無重力であるため止まることもできず、ゲルクのナイトモスキートはヒート・スピアーの先端を切り落とし、ファウルクスのナイトモスキートは下半身より先が爆発した。

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