緊急事態
無重力空間の中でも、アサミの入隊式は執り行われた。
それもそうだろう。アサミとテイム、それから色々な大将という階級の人と、兵器長のピーターが特別参加するくらいだったので、無重力でも決行するという判断に至ったのだろう。それに、いくら無重力とは言え、少し動作がゆっくりになるだけで歩くこと自体は普通にできるのだ。
<イカロス>に住んでいれば体が無重力を覚えるので、全員もはや普通に違和感はなかった。
「アサミ・イナバ。前へ」
「はい!」
この<イカロス>という国において、一番早く正式に大将に昇進したと言われている、スミス・トーレスがアサミを呼ぶ。
スミスは、手に階級バッジが入っていると思われる箱を手にし、アサミが目の前に立って敬礼したところで口を開いた。
「アサミ・イナバ。今日から正式にイカロス国正式パイロットとして採用する。尚、今回の件は特殊事案であり、初期階級は准尉とする」
この言葉に、この場にいる、テイムとピーター意外の全員がざわめき出した。
一等兵や二等兵などの兵士階級、更には軍曹などの下士官階級をすっ飛ばしての階級だ。
この場にいる全員は、テイム以外大将であるため「うらやましい」という感情は無いが、この場にいる彼らも努力の上成り立っている上位階級である。
多少なりとも、心がざわつくのも無理はない。
アサミは一歩前に踏み出し、箱から出された階級バッジを受け取ったところで、この入隊式は幕を閉じた。
「じゅ、准尉って凄いんですか!?」
テイムとの会話でアサミはそのことを初めて知った。
「基本的には中くらいの階級だが、アサミ・イナバはそこにたどり着くまでの過程をほとんどすっ飛ばしているというだけだ」
「━━なんでそんな事に?」
「さぁな。なんでも、『特別だから』の一点張りだ。━━まぁ、ピーターの手が入っていることはほぼ確実と捉えていいだろう」
その言葉はこの二人でしか理解できない言葉であり、その言葉の理解は他を遥かに超えていた。
「だったら、ピーターさんの気持ちも乗せて、頑張らなき━━━」
その時だった。
”ビーーッビーーッ”
<イカロス>の軍全体に、爆音のサイレンが鳴り響いた。
今まで明るく点っていたランプも赤色に変わった。
わけも分からず立ち尽くしていると、アナウンスの声が聞こえてくる。
『施設内職員及びパイロットに告ぐ!<イカロス>第三地区に正体不明の
「だそうだ。行くぞ、アサミ・イナバ!」
「はっ、はい!」
アサミが気合を入れて返答すると、テイムは思わず苦笑いを浮かべていた。
勿論、横にいるアサミが気づかないはずもなく、
「━━どうしたんですか?こんな非常事態に?」
と聞いた。
「まさか、アサミ・イナバの仕事がこんなにも早く来るとはな。思ってもいなかっただけだ」
そう言うと、テイムは地面を蹴って、浮かびながら廊下を突き進んでいく。
その後を追うように、覚悟を決めた目をしたアサミが進んでいった。
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