重力発生装置、点検開始。
ニーナとマヒルと別れた後、手の空いたアサミはスノウラビットの点検整備作業をしていた。
タツロウと一緒に組み立てたことで、スノウラビットの構造はほとんど理解していた為、思ってたよりも整備員の人に頼りにされることも多かった。
そんな作業が、やっぱり育ってきた環境もあって好きなんだと理解した。
”ウィーーーーン”
手の内に収まっているほどの小ささの電動ドライバーでスノウラビットの装甲をしっかりと取り付けた。
(━━これでもう装甲は取れないはず……!)
手の甲で額の汗を拭っていると、さっきまで電動ドライバーの音で聞こえなかった整備員の話し声がどこからか聞こえてきた。
「おい、今日って
「あの日ってなんだ?」
「おいおい、今までどこで暮らしてきてたんだよ。今日は重力発生装置点検の日だぜ?」
「えっ、今日って
<イカロス>での、月一回、重力発生装置の点検がある。
その間、重力発生装置は停止され、<イカロス>内は無重力になってしまう。
これには賛否両論あり、無重力が楽しいという者もいれば、まるで時差ボケのようにいつになっても無重力に慣れない人に不親切だという声も上がっている。
テイムも作業を終わらせてきたのかいつの間にか、会話を聞いていたアサミの真横に立って口を開いた。
「今日は無重力の日か。俺も長年この世界で暮らしてきたが、どうもこの日だけは何かと慣れない」
「わっ、テイムさん!いたんですね。それで、無重力の日が慣れないってどういうことですか?」
「なんというかだな。無重力だと機体をどういうふうに動かせばいいかたまに分からなくなるし、機体動作もフワフワするから、慣れないんだ」
ここまでのテイムの話を聞いていると、テイムはどうも自分の生活よりも
(こういうのを、プロ意識って言うのかな……ていうか、「長年暮らしてきた」っていう言葉、なんか重みがあるけど、テイムさんって何歳なんだろ)
「あの、テイムさん━━!」
言いかけて、
”ポーーーーン”
倉庫の中で、全員に聞こえるチャイムの音が高らかに響き、アサミは言葉を切らざるを得なかった。そして、チャイムの音がなり終わると同時に、女性のアナウンスが鳴り響いた。
『こちらは国内放送です。只今より、かねてより予告していた、重力発生装置の点検を行います。なお、点検期間中は、<イカロス>全域が無重力になりますので、大変ご迷惑をおかけしますが、しばらく、無重力の時間をお楽しみください。━━繰り返します。こちらは国内放送です。━━━━』
そのまま、まるで機械音のようにアナウンスが繰り返されていく。
整備班の第12班リーダーがスノウラビットの胸辺りにある簡易的な足場から、周りに大きな声で呼びかけた。
「これから無重力の時間が始まる!今回の点検は長期点検になる為、日付が変わるまではとりあえず続くようだ!よって、これから30分間の休みの時間を取る!今のうちに休息を取り、この後の作業に備えてくれ!」
整備班第12班リーダーが言い終わると、アナウンスの音声も気づいたら終わっており、『それでは、無重力の時間をお楽しみください』と耳に入ってきた瞬間、体がふわりと浮いた。
これから、この無重力が<イカロス>過去最大の混乱の元になるとは、この時はまだ、誰も思っていなかった。
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