チャーハン

思わぬ提案に、思わずイカロス軍事司令部の中が凍りついたと言っても過言ではないほどの静寂が辺りを包んだ。


ASCOFアスコフの中ならば、燃えているASCOFアスコフにも耐えられるでしょう。そうすれば、<イカロス>に被害は出ない。何なら、破壊だって可能━━━」


「馬鹿を言うな!アレ・・を壊されたら、<イカロス>はもう終わりなんだぞ…!分かっているのか!」


「えぇ、分かっていますとも。十分に。だからこそ。自分のツケくらい、自分でなんとかしてみせます…!」


「━━だからって、私のようなそこらへんの技術長官に許可する権利はない。ウィッグネン殿がいればどうにでもなるとおもうがな……」




その時だった。

軽い拍手のような音がドアの方から聞こえてきたのだ。その場にいる全員がそちらのドアの方を振り向いた。

きれいに整えられたスーツ姿につやつやとした金髪。

ピーター・ウィッグネンである。


「まあまあ、いいではないか、技術長官殿。バーストタイガーの性能を更に確かめる、良い機会だと思いませんか?行っていいですよ、プロスル少尉。頑張ってください」


技術長官は黙りながら何もできず、テイムは走り出した。司令室から出ていったテイムを見送ると、技術長官は口を開いた。


「━━よろしいのですか?ウィッグネン殿?」


「……ではあなたは屏風の中の虎を退治できますか?」


技術長官はわけが分からず、聞き返した。


「━━ビョウブ……?」


「すいません、忘れてください。昔の日本という国の言葉遊びですよ」




「……ん?」


月を見るために創造された夜空を見上げていたアサミは、月以外に光るものを夜空に見つけた。

それは時間が立つに連れ、徐々に大きくなっていき、光を増していく。


ありえないとは思いつつも、一つの可能性が頭をよぎった。


「……え?隕石?」


その言葉を口からこぼした自分にビックリした。


そして、既に体が動いていた。

今から装甲を固定しようとする、まだ組み上げ途中のASCOFアスコフのコックピット部に乗りこんだ。

それを横目で見ていたタツロウは、驚きのあまり大声を出した。


「お、おい!何してんだよ!お前!それは商品なんだぞ!」


「わ、分かってます!でも……外に隕石が!」


「はぁ?隕石ィ?」


タツロウはガレージから外に出て、空を見上げた。

たしかにそれらしき物体は見える。

すると、横から先程まで組み立てていたはずのASCOFアスコフが地面を踏みしめながら出てきた。

それは雪を思うほどの純白であり、頭部からウサギのような尖った耳が生えた機体だった。そのスリムな見た目は、自然と小動物を思わせるほどだった。

そんなASCOFアスコフに向かってタツロウは叫んだ。


「おい、本当に行くのかよ!?」


するとその純白のASCOFアスコフから聞き馴染みのする声がした。


「はい!……必ず!必ず帰ってきます!」


絶対帰ってくる。誰でも言えそうなそんな言葉にタツロウは嘘を感じ取れなかった。タツロウはアサミを信用していた。


「おう、そうか。なら、夕飯、何にするのか決めておけよ」


「……」


答えは一つだ。


「━━チャーハン……チャーハンがいいです!」


そう言うと、アサミの乗る純白のASCOFアスコフはぎこちない動きで地面を蹴り出す。




「ははっ、随分俺も親ばかになったじゃねぇか……」



それは決してアサミに届くことのない小さな声だった。


一人取り残されたタツロウは呟いた。

「馬鹿野郎ォ……チャーハンは昼に食ったばっかじゃねえか……」

口ではそう言いつつも、走り去っていく純白のASCOFアスコフを見ているとタツロウは今、無性にチャーハンが食べたくなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る