火球
アサミは月が好きだ。
いつからかは覚えていなくても、月が好きだという確かな感情がある。たとえそれが、作り物だとしても。
(もうちょっと、ちゃんと見たいな……)
たまたま振り向いたその作業場から見える月はほんの僅かであり、全ては見えない。
「ミナミさん!外、出ていい!?」
「あぁ……?」
タツロウはその言葉で気づいた。
(あぁ、月か……)
タツロウも、アサミが月を妙に好きなのは知っている。
「……いいぞ。休憩だ」
「ありがとうございます!」
アサミはそう言うと、足早に外へ駆け出し、真っ先に空を見上げた。
そこには、綺麗な、まるで映し出されている偽物とは思えないような満月が、光り輝いていた。
あの混乱はどこへやら、イカロス軍事司令部に入った瞬間、テイムはその場にいる全員から拍手と賞賛のシャワーを浴びた。そのうちの一人、<イカロス>の技術長官が前に歩み出た。
「いぃや、素晴らしい!
「いえいえ、その奥にいたと思われる指揮官らしき機体は逃してしまったので……それ程の戦果ではありません」
「ご謙遜なさるな、テイム少尉殿。これもまたあなたの、いや、〈イカロス〉の戦果なんです!」
因みにこのような会話、もう何度したかも分からない。
今まで
それ程までに
テイムがもう一度否定のセリフに入ろうとした時に、後ろにあるモニターに映っている物が、テイムの目に飛び込んできた。<イカロス>の技術長官よりも前に乗り出し、そのモニターを凝視した。
「お、おい、何なんだ、アレは!」
そのモニターの前に座っている情報員がモニターに振り向いた。
そのモニターに映っているのは〈イカロス〉の内部と外部の境界線を映したカメラのライブ映像であり、そのモニターには流星のような物が映り込んでいた。
モニターの前にいる情報員が声を大にして全員に聞こえるように言った。
「高熱源体……ア、
室内がざわめく。しかし、燃えている
室内の一人が声を荒らげて言った。その男は、贅肉の着いた、極めて前線には出ないと言っているような男だ。
「ど、どこから入ったんだ!そんな害虫!」
「分かりません!今解析中です!」
「分からないだどぉ〜〜?」
情報員の元まで歩き、そのまま情報員の胸ぐらを掴んで唾を飛ばしながら叫んだ。
「それをサルでも分かるように素早く調べるのがお前らの仕事だろうが、この馬鹿がァ!」
情報員はその圧力でほとんど腰を抜かしていた。
怯えているような表情だった。
それを見ていたら居ても立っても居られなくなったテイムが全員に聞こえるよりも更に大きな声で男に向かって言い放った。
「私のせいです!」
皆、テイムを凝視した。
「私が、先の戦闘で燃えていた
男は我に返り、胸ぐらを掴んでいた手をパッと離した。
技術長官が事が終わったと見て、話をする。
「とすると、まず、ムーブ・パレスに大気圏は存在せず、ムーブ・パレスの重力に引かれた場合、大気圏が存在しない為、基本的に何かが燃えながら落下してくることなんて無い。しかし現在、
それは数時間前、テイム・プロスルの乗るバーストタイガーがバースト・フレイマーを使用し、〈アポロン〉の
しかし、
「それだと、燃えている
疑問点はそこである。
通常、ムーブ・パレスには簡易的な壁が貼られており、もしそれが突破されているのならば、とんでもない被害が今頃出ているはずだ。
たが、現状はそんなことにはなっていない。
だとすると、人為的に燃えている
だが、今はそんなことを言っている暇はない。
技術長官は声を大にして皆に向かって言い放った。
「今すぐ、〈イカロス〉の重力装置を止めろ!」
それに対して、テイムも声を大にして言った。
「ダメです!今からでは間に合わない!それに、市民が混乱するだけです!」
「なら、〈イカロス〉の防衛武装を発動させて━━」
「それもダメです!それをするにはまず、避難の最優先を━━」
技術長官は怒りを抑えられないような顔でテイムに怒鳴り捨てた。
「では、どうしろと言うのだ!」
イカロス軍事司令部は静寂に包まれた。
その静寂を破るように、テイムは言葉を詰まらせながら一つの提案を口にした。
「では━━俺が、バーストタイガーに乗って、アレを止めます━━━━」
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