ミナミ・タツロウ、その決意。

走り去っていくトラックをアサミはただ、眺めることしか出来なかった。

今この場には3万ドルの入ったキャリーケースと、いつの間にか置かれていたASCOFアスコフのパーツの入ったトラックの荷台だけしか残っていない。いや、一つだけ確かなものを置いていった。


皮肉である。


このミナミ鉄工所は確かに客は少ない。

まぁ、「売れていない」と言われることはミナミ鉄工所では日常茶飯事である為、怒りすら覚えないのだが。


(嵐のような人だったなぁ……)


そんな考えに浸っていると、店のシャッターの奥からタツロウが声をかける。


「おい!いつまで外出てんだ!もう炒飯冷めちまってるぞ!」


それを聞いたアサミは体をビクンと跳ねさせ、恐る恐る後ろを振り向いた。明らかにイライラしているタツロウがいた。

しかし、アサミは一つだけ言わなければならない事がある。


「ミ、ミナミさん……アレ・・の搬入、手伝って貰ってもいいですか…?」


そう言ってアサミの指さす先は、先程のトラックの荷台である。

それを見たタツロウは思わず叫んだ。


「な、なんだありゃあァァ!!」




空になった炒飯の容器を洗うタツロウであるが、明らかにイライラしているのが分かる。なんと言うか、申し訳無い気持ちだ。タツロウが口を開いた。


「俺はよぉ……妻の婆さんをもう何年も前に失くしてんだ。……何で死んだと思う?」


タツロウはどこか遠い目をしながら呟く。


「……戦争だよ。戦争に巻き込まれて死んじまったよ……まだ〈エキドナ〉と〈アフロディーテ〉とここイカロスしか無かった時代さ……狭えムーブ・パレスん中で人間は殺しあったのさ……」


アサミはなんと返せばいいのか分からなかった。

タツロウは容器を洗うための水を止め、俯いた。


ASCOFアスコフとか言ったか、アレ・・は戦争の道具だ……」


場が静寂に包まれた。

次の瞬間、タツロウは声を荒らげた。


「あれは!戦争の道具なんだよ!婆さんを殺した!戦争のさ!」


「…………」


アサミは黙るしか無かった。何を言えばいいのか分からなかった。ただ、このミナミ・タツロウという男の覚悟は伝わってきた。

タツロウは冷静になったのか、声を落ち着かせた。


「……おい、金をいくら貰ったんだ……」


「……さ、3万ドルです……」


「3万か……3万もありゃ、お前も綺麗な服の一つも買えんだろ」


「そ、それって………!」


「これ片付けたら作るからな、アレ・・


「━━━!ありがとうございます!」


どれだけの想いは抑えてくれたのか、アサミには想像もつかないが、アサミの胸の中は感謝の気持ちでいっぱいになった。


”‬バチバチバチッ”‬


火花が飛び散り、徐々にASCOFアスコフの形が出来ていく。タツロウが大きな声で、しかし怒鳴るような声では無く、あくまでも確認のための大声でアサミを呼んだ。


「おい、いいか!」


「はーい、大丈夫です!」


すると、ASCOFアスコフの胴体に右腕が繋がった。


”‬プシュゥゥゥゥ”‬


少しばかりの煙が吹き荒れ、右腕が完全に接続される。


「よぉし、フレームは取り敢えず出来たみてぇだな……!後は完全に取り付けるだけだ……!」


実はもう既に装甲の仮組みは終わっていた。

後は装甲のネジを締め直し、しっかりと固定するだけだ。もう空は暗くなりつつあり、空にはムーブ・パレスのドームに映し出される月が出ていた。

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