火を吹く虎
テイムはそう言うと、バースト・タイガーがアーム・ヒート・クローを腕に貼り付ける様に元に戻し、左腕で、先程熱圧縮装置のスイッチを入れて置いた銃を取り出した。
この銃こそ、アーム・ヒート・クローに次ぐ二つ目のバーストタイガー専用武装のひとつである、バーストフレイマーである。
”ガシャン”
「よし、これでなんとか戦えそうだな……」
一方、エレンのナイトモスキートは、先程バーストタイガーによって切り離されたヒート・スピアーを掴んだままの右腕を左腕で掴んでいた。幸いにも、先程切り落とされた右腕は、しっかりとヒート・スピアーを固定してくれていた。
電力の無くなった掃除機の中身を回転させるのが難しいのと同じ原理で、右腕はヒート・スピアーを掴んだままでいた。
これで戦うのは少々不便だが、武器が無いのよりはマシとも言える。
頭をカメラごと破壊されたビルークのナイトモスキートも、胸部に着いている小型のサブカメラを起動させた。少々画質は悪くなるが、戦闘においてはなんら問題は無い。
その時、ナイトモスキートのコックピットに、声が響いた。
しかも、二機同時で。
ただ、これは小隊長の救援の声では無かった。
「そろそろ準備は出来たか?」
テイムの声である。
察しの良い二人は気づいた。
「全体チャンネルか、クソッ……」
「明らかに馬鹿にされているな、これは……」
エレンは悔しがり、ビルークは最早この状況に失笑するしか無かった。
挑発的なテイムの態度。
テイムの狙いとしては、あのほぼ負けとも言っていい
するとナイトモスキート二機は、バーストタイガーに向かって突進してきた。
テイムの狙いが完璧に成功したと言っても、過言ではない。
テイムは半ば興奮しながら、バーストフレイマーの引き金を引いた。
するとどうだろう。
バーストフレイマーの銃口の先から、真っ赤に燃える炎が吹き出したのだ。
そう。バーストフレイマーは火炎放射器だったのだ。
熱圧縮装置を利用、かつ応用し、〈ノア〉と呼ばれるムーブ・パレスの会社が作り出した、新作の兵器である。
バーストタイガーがバーストフレイマーを横に振るうと、それに応じて炎が拡散していく。
”ブォォォォォウ”
紅蓮の炎が、暗い宇宙を照らしながら切り裂く。その炎が晴れると同時に、ヒート・スピアーを握ったままの右腕を左腕で掴む―――いや、エレンのナイトモスキートがバーストタイガーに接近してくる。
右腕でバーストフレイマーを持つバーストタイガーには、どうしようも無い状況――のように見えた。
テイムは慣れた手つきで機体を操作する。
すると今度は、左腕のアーム・ヒート・クローを起動させた。
アーム・ヒート・クローは、両腕装備である。
バーストフレイマーで炎を目の前に拡散させる。
”ブォォォォォ”
その炎が晴れるのも待たず、バーストタイガーは急激な速度で加速した。そのままナイトモスキートの眼前まで前身、そして、ナイトモスキートの腹を、下から上に、まるでアッパーの要領でアーム・ヒート・クローで突き上げた。すぐさま左腕をナイトモスキートから引き抜き、もう一機のナイトモスキートのいる方へと蹴り飛ばした。
それはナイトモスキートビルークの目前で、
”ドゴォォォォォンッ”
爆散した。
言わずもがな、エレンは生きていないだろう。
それを見ることしか出来なかったビルークは、ただ叫んだ。
「うあああああああッッッ!!!」
叫びながら、ひたすらにバーストタイガーに突進した。
人間、悲しみを超越すると涙すら出ないということを、ビルークは考えずとも脳内で理解した。
そんなひたすらに突進してくる敵
そして、引き金を引く。
バーストフレイマーの銃口から飛び出したのは、先程のような燃え広がる様な炎ではなく、炎が揺らめき、太陽とも錯覚させるほどの火球であった。
その火球はナイトモスキートの胸に直撃し、すぐさま爆発した。
”ボォォォォォンッ”
一機のナイトモスキートは破片がそこら中に飛び散り、もう一機は未だに燃えている。まぁ、燃えていても自然消滅することだろう。
テイムはコックピットのイスの背もたれに背中を預けると、数度、目をぱちぱちと瞬きさせ、ふぅ、と息を吐き出した。
終わったという確信により、疲れが一気に襲い来る。
安全の為、全ての熱圧縮装置を全て解除した。これは〈イカロス〉で決められている絶対事項だ。なんでも、昔、熱圧縮装置の切り忘れで爆発を起こし、大勢の軍事関係者を失った事故があったとか……
まぁ、諸刃の剣ということだろう。
そのままの勢いで〈イカロス〉軍事司令部のチャンネルに、「今すぐ帰投する」とだけ伝えると、ちょうど真下にうっすらと見える〈イカロス〉に向けてバーストタイガーを発進させた。
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