第8話 かわいい暴走

 秘密の森。新しくまた1人の美少女が、僕の従魔になってくれた。


「マスター、不束者ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」


 イオナがしゃなりとお辞儀をしてくる。


 たった数時間のあいだに、2体のネームドモンスターをテイムしてしまった。


「こちらこそ、よろしくね」


 前代未聞の偉業すぎて、我ながら呆れちゃう。


 出会う事さえ難しいネームドなのに、他人が聞いたらびっくり仰天、腰を抜かすよ。


「えへへへへへへへっ」


 体をくねらせ照れるエブリンと、イオナはモジモジと上目遣い。


「僕を選んでくれてありがとう。ふたりは可愛いし、やっとテイマーらしくなれたよ」


 やはり自分の従魔って良いものだ。レンタル従魔には感じなかった愛情が湧いてくる。


「「えっ!」」


「えっ、なに、どうしたの?」


 2人があまりにも驚くから、何事かと聞き返した。


「マスター、今『かわいい』って……言いましたよね?」


「あ、うん、言ったよ?」


「「きゃーーーーーーーーーーー!」」


 歓喜の悲鳴と思っていいかな、2人の目が輝いているよ。


「じゃあ、ワンちゃん。私のどこら辺がかわいいぎゃ?」


 こう聞かれるとは思ってもみなかった。しかも腕にまとわりついてくる。


 いいよどむのも変だし、感じたことを素直に話そう。


「えっと、そうだなぁ。エブリンは小さいけどパワフルだし、見ている方も元気になるからね。そんなワクワクする(妹のような)可愛さかな」


「イヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒヒッ」


 エブリンはニタついて、何度も僕をチラ見してくる。

 こういった所も可愛らしいよ。


 そのうしろでイオナが、ずーっとそわそわして待っている。


「マ、マスター。わ、わ、私のも、えっと、お、お願いします!」


 ガバッと頭をさげてきた。なんか意気込みを感じる迫力だ。


「ははは、えっとー、イオナは天使族とは思えないほど丁寧だよね。それでいてオッチョコチョイだし、見ていて癒される(天然系の)所が魅力的だよ」


 イオナは暴れているのかと思う位手をバタバタさせて、顔を真っ赤にさせている。


「み、み、み、魅惑的なのが魅力? マスターはセクシーな私が好きなのですね。は、は、はい、それなら得意な方面です、ポッ」


「えっと、どうしたらそんな風に聞こえるの?」


 だいぶズレた解釈に戸惑い、それを訂正しかけたら、今度はエブリンが暴走しだした。


「えーっ、私のことはー? ワンちゃんはちっちゃい子は嫌いなのぎゃ? ねえねえねえ、ちゃんと答えて欲しいぎゃよ」


 泣きそうな顔できいてくる。うっ、眉毛のこのあげ方は反則だよ。


「ちょ、ちょっと待って。嫌いだなんてそんな事はないよ。エブリンのことも好きだよ」


 つい、ついなんだけど、勢いで言ってしまった。


 この一言がいけなかったようだ。

 僕としては、あくまで従魔としての感情なんだ。


 でも話がどんどんと、僕の意図していない方へ進んでいく。


「あ、ありがと、私も初めてのキスは、ワンちゃんしかいないって思っているぎゃ。どんな事があっても、しっかりついていくからね。んーーーーーーーーーーっ」


「あうっ、え、え、ななな何を!」


 イオナの〝ひとり恋愛〞、エブリンからの〝チューしてポーズ〞。

 予期しないワードも聞こえてきて、僕の視界がグンッと狭くなる。


「わ、私もマスターを支えますわ。いえ、人生の伴侶として一緒に歩みましょう!」


 イオナとエブリンは互いに押しのけ、僕を奪いあっているよ。

 僕はビックリして、されるがままだ。


「ちょ、ちょっと……あわわわわ」


 何度もいうが、2人は超がつく美少女だ。


 かたや壊れそうなスレンダーに、かたやメリハリボディ。

 その2人に言い寄られれている。


 種族が違っても、恋愛経験のない僕には対処しきれるものじゃない。


 それが分かってなのか、2人での会話が進んでいくよ。


「ちょっとー、そこは私の場所なのぎゃ。勝手に入ってこないでぎゃ」


「いいえ、マスターは優しく包まれるのが好きなのよ。ギュッとすると、ほらーこの顔よ」


「ムギーーッ、ワンちゃんもデレデレしないでぎゃ!」


 そんな事はない。あくまで僕は2人の主人だ。ここは冷静に、毅然とした態度で接するしかないよ。


「ふ、ふたりとも落ちついて。まずは一旦離れようよ」


 諭す言葉が届かないのか、2人は意地をぶつけあう。

 右へ左へと、僕を取り合って引っ張りだしたんだ。


「いたい、いたいよ。イタタタタタタタタタタターーーーーーーッ」


 戦闘力Gマイナスの力加減じゃない綱引き。どこにこんな力が隠されていたんだよ。


 この悲鳴に、2人はヤバいとすぐに離してくれた。早めに声をだしてよかったよ。


「ああ、ごめんワンちゃん。ケガはないぎゃ?」


「すみません、恋で目が眩みました。大事なマスターを傷つけるなんて、従魔失格です、ショボン」


 本当に腕がとれるかと驚いたけど、うなだれる姿は見たくないかな。


「いいよ、気にしないで。それだけ僕を想ってくれている証拠だよ。逆に僕は嬉しいよ。だから、2人には力を合わせてほしいんだ。お願いできるかな?」


「「はい、マスター!」」


 ガバッとハグをしてくる。何か落ちつく所へ落ちついたかな。

 この時は2人を信じ、そう思いこんだ。




 このあとイオナにも、僕の特性や能力について説明をした。


 やはり素直に聞いてくれている。そして、実際にバフをかけてみた。


「こ、これがマスターの本気? す、凄すぎですわ。偉大すぎて、私には勿体ないくらいですぅ」


 逆に僕の方こそ、念願のネームドが仲間になってくれたし、やっとスタート地点に立てたんだ。2人には感謝だよ。


「いいえ、マスターは完璧ですわ。背中で感じる安心感、まるで太陽の如くです。これなら私も魔法を活かせそうですわ」


 ネームドモンスターであるイオナの才能はとんでもないそうだ。

 天空セイント魔法の全魔法を習得しているらしい。


「ですが、今までは魔力が低くて、どんな上位魔法でさえショボかったのです。ですがこれからはマスターの盾となり、役にたってみせますわ。全ての頂点にたつマスターに栄光あれですわ」


「ありがとう、でもそれは大げさだよ」


「いえ、そんな謙虚な所もカッコいいです。まさに従魔を従えるに相応しいお方です」


 と、イオナはいたく感心し、まだ僕への称賛をやめない。


「おぉ、ワンちゃんの凄さが分かるとは、中々やるぎゃね」


 エブリンも笑顔で会話が弾んでいる。


 さっきまで殴り合っていたのに、友情が生まれたのかな。それとも従魔としてのつながりを感じたのかも。


「2人ともこれから、よろしく。2人が協力してくれれば、なんだって出来そうだ」と、僕。


「まぁ、エブリンが先輩ぎゃ。分からない事はなんでも聞くぎゃ」


 とエブリンが息巻く。


「大丈夫よ、ゴブリンごときに教わらなくても、マスターをしっかり支えます」


 イオナがぴしゃり! ちょっと変な流れじゃない?


「プッ、負けたクセに偉そうだぎゃ」


「なんですって、やるって言うの?」


「うぎゃ、可哀想だから、もう一度勝負してやるぎゃ」


 しょ、勝負? 尋常じゃない言葉で不安になる。また変なことにならないよね?


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