第6話 少女同士の想像を超えた戦い

「んんっ、あーーーーいたーーーーー。コイツです。これが悪の権化ですぅぅぅうう!」


 イオナもエブリンを指差しているよ。


「誰が悪だぎゃ。こんなカワイイ子を捕まえて。お前こそ、その凶器みたいな体をブン回すのを止めるぎゃ」


 と、即座にエブリンが応酬した。


「あー、言ったわねーー。人が気にしている事を! やっぱりアンタ抹殺決定よ、覚悟しなさい」


 イオナは恥ずかしそうに、胸元をかくしながら怒っている。


「イヒヒ、気にしているのはダメな証拠。そんな邪魔なモノ、私がすり潰してやるぎゃ」


 互いが危険と感じて、警戒した存在だ。一触即発だよ。


 だけど……ぷっ。


「うるさいわよ。アンタなんか、なしなしのクセに!」


「ムキーッ、このアリアリめ」


 幼稚なやり取りが、まだ続いていて笑えてくる。


「ぶふっ、ふ、2人とも、ケ、ケンカは、プププッ」


 いやいや、笑っている場合じゃないか。


 あのバフが掛かったエブリンと、それに物怖じしない天使族のイオナの激突。

 きっと僕が経験をした事がない、とても激しい戦いになりそうだ。


「いい度胸だぎゃ。新しくゲットしたパワーを味あわせてやるぎゃ」


 でも、いまなら止められるかも。


 エブリンは既に僕の従魔だし、制御できる存在だ。

 いくら天使族が頑固者であっても、他人の従魔だと知ればやめてくれるはず。


「待って、イオナさん。この子は僕の従魔なんだ。ちょっとでいいから、話を聞いて」


 両手を広げ、あいだに入る。

 イオナは僕のこの行動に驚き、握った拳を緩めはじめた。


 が。


「ワンちゃん、任せてぎゃ。こんなのワンパンだぎゃ」


 と、エブリン。


「なんですって。低能ゴブリンは自分が見えていない。それにギャブギャブうるさいわ」


「ムキー、凶器女め、どっちが強いか教えてやるぎゃ」


 向きをかえ距離をとり、開始のゴングを待っている。

 もう、上手くいきかけたのに、むちゃくちゃだ。


「ふん、チビッ子凶器なしなしめ、覚悟しなさい!」


 これ以上は入る隙がない。エブリンの煽りでヒートアップ。

 鳴ってもいないゴングの音が頭の中で響き、2人の戦いは始まった。


「すり潰すぎゃ!」

「こっちのセリフよ」


 ここで下手に手を出したら、僕がペッちゃんこだ。もう見守る事しかできないよ。


「うぎゃ、うぎゃ。むむむ、やるぎゃね、これならどうだ」


「くっ、なんて威力なの。でも負けないわ、エイッ」


「キィー、こうなったら、エブリンビンタだぎゃ、うぎゃ、うぎゃ、うぎゃー」


 激しい攻撃の応酬。ひとつのパンチ、ひとつのキックが、どれも血の凍る恐ろしいモノ。


 ではなくて……。


 なんと言うか、ペチペチ、パチパチと、まるで子供のケンカみたい。

 バフの効果がきれたようだ。


「エイッ、エイッ、エイッ」

「うぎゃ、もうこのー、この、このー」

「いったーい、もう怒ったわよ、エイッ」

「髪の毛は反則だぎゃ、うぎゃら」


 あれ、弱いエブリンと互角だなんて、もしかしたらイオナの攻撃力も、相当に低いのかな?

 うーん全然迫力ないし、ケガの心配もなさそうで、見ていて安心だよ。


 しかも、お互い有効打がでないので、やたら長いケンカになっている。


「はぁ、はぁ……はぁ、はぎゃ」

「ふぅっ、ふぅっ、ふう……エイッ」


 ただ本人たちは、いたって真剣。うんうん、まさに子供のケンカだな。


 息切れをしているし、そろそろ止めに入ろうとしたその時、試合がうごいた。


 イオナの本気ビンタをかわしたエブリンが、その腕に思いっきり噛みついたんだ。


「痛いって、イタイよマジで。いやーー!」


 エブリンは死んでも離すものかと、キバッている。


「いったーい、痛い、痛いってば! やめて、やめてよ。痛ーーーーーーーい。お願い、降参するから、噛まないでぇぇぇええ!」


「うぎゃらぁぁぁあ、わたしの勝ちだぎゃぁぁああぁぁぁあ!」


 勝利の雄叫び。そして太陽にむかってポーズ。ババーンと、効果音が聞こえてきそう。


 弱いもの決定戦。勝者?はエブリン。


 まあ、泣いて終わりで良かったよ。最初はどちらかが死ぬと思ったし、結果オーライかな。


「びぃいいぃぃえぇぇぇえんんん!」


 あらら、まだ泣いているよ。よっぽど痛かったんだな。

 血は出ていないけど、相当ショックだったみたい。可哀想だし、傷薬をあげるか。


「ねぇ、コレを塗れば少しは楽になるよ」

「びぃえぇぇぇえんんん」


 ダメだ、本気泣きだ。こっちの声が聞こえていないや。


「もう、しょうがないなぁ。ほら、こうぬりぬりすれば。ねっ、痛みが治まったでしょ?」


「びぃえぇえん……ん? あれ、痛く……ない」


「良かった、もう泣かなくていいんだよ」


 うっとりとした瞳で見つめてきて、そして頭をコテンと預けてきた。


「…………好き♡」


「えっと、なんでそんな流れになるのさ」


 って戸惑うよ。


「マスター、このご恩は生涯かけてお返しします」


「マスター……それってもしかして?」


「はい、ポッ」


「待て待て待て待て待て待て待てってばぁ、それはおかしいよ。だって僕はネームドモンスター専門テイマーだよ。フツーの霊魔族には効かないよ!」



 名前:イオナ(ネームド)

 種族:天使族

 物理戦闘力:G-

 魔法戦闘力:G-

 スキル:天空セイント魔法

 称号:遠慮のない貰い手

 従魔契約者:ワンダーボーイ



 やられたよーーーー、またしても気づかない内に従魔契約が終了じゃん!

 その瞬間を味わいたかったのにーーーー。

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