第5話 天使族が落っこちてきた
「ワンちゃん、なんかヤバい匂いが近づいてくるぎゃ」
エブリンの顔がひきつっている。
「す、すぐに来そう?」
僕もこれはマズイとかまえる。
「まだ遠いぎゃ、でも凄いスピードでやって来るぎゃよ」
「エブリン、さっきのバフ効果はまだ続いているね?」
万全とは言えないけど、できる限りの事はしてある。
「全方位に気を張り、不意打ちに備えるんだ」
立て続けの戦闘かと、緊張で
すると上空から叫び声が聞こえてきた。
だけど、それは想像していたモノとは、種類が違うモノだったんだ。
「きゃーーーーー、とーまーらーなーいー、いーーーやーーーーーーーー!!!」
上空から悲鳴をあげた人らしき白い影が、ドンドンと近づいてくる。
いや、人の形に大きな翼がついている?
「どいて、どいて、ぶつかるよーーー!」
そのスピードと迫力に僕は固まってしまい、モロにぶつかってしまった。
――ポヨヨ~~~~ン
かなりの衝撃にも関わらず、柔らかな感触がムニュンッときて、傷など負わず押し潰されるだけで済んだんだ。
でも。
「ぐぇ~、お、重い~~~~、ぐへっ」
がっつり上に乗られて、なにやら気持ちいいような、苦しいような。
「ご、ごめんなさい。あわわわ、すぐにどきますね」
上に乗っていた人物が、ムニッと勢いをつけて立ち上がる。
「ご迷惑かけました。私、天使族のイオナと申します。本当にすみませんでした」
衝突されたショックより上回る現実が、目の前で喋っている。
「こ……このひと、翼がはえている」僕は放心する。
「ぼーっとされて、これは頭を打たれたかも。あわわわ、どうしましょう」
深々と謝ってきたその動きで、翼からの風がブワサッときた。翼は紛れもない本物だと確信する。
「て、て、天使族って初めて見たよ!」
天使族といえば、ケンタウロス族と同じ半魔半人。
モンスター、人類、どちらとも言いがたい存在で、魔石を体内に持つ霊魔族なんだ。
「錯乱される程だなんて、かなり重症だわ」
イオナが翼をたたんで、ペコリと。その仕草に心を奪われる。だって天使族って、とってもキレイなんだ。
純白の翼に整った顔立ち。きれいな金髪に透き通った青い瞳。そして凄くメリハリのあるボディー。
上に乗られた時は、ドギマギしちゃったよ。
「い、いえ、体は大丈夫です。頭も打ってません。だから、そんなに心配しないで下さい」
だけど、こう見えて天使族はプライドが高いんだ。
その傲慢な態度のせいで、他の生物と度々衝突をしている。
言葉は通じるけど、とても好戦的な生き物なんだ。
「ごめんなさい、私おっちょこちょいだから、スピードを出しすぎたの……はい」
すごく物腰柔らかに頭をさげてくる。
聞いていたのとだいぶ違うね。
「いいですよ。急いでいたようだし、しょうがないですよ」
僕が謝罪を受け入れたので、向こうも笑ってくれた。でも彼女、何かを思い出したようだ。
「あっ、そうでした。急いでいたのはこの近くで、邪悪な気配を感じたからなのです。この世に災いをもたらす存在。絶対に存在を許してはいけない、そんな強大な波動でした」
ノホホンとした雰囲気の会話から、急に怖い話になってきた。僕は信じられずに聞き返す。
「そんな恐ろしいモノが、この平穏な土地にいるの?」
それにコクリと頷いてくる。
自らを神の代行者と名乗っている天使族だ。独自の秩序と正義を持っている。
「やはり、エブリンが警戒した通りなんだ」
「すぐ近くに感じますよ、こ用心を!」
イオナは目を閉じ、その気配を感じ取ろうとしている。
エブリンとイオナが、警戒する正体不明の強敵。セオリーに従うなら、撤退が一番だ。
闇雲に戦うのは、最も愚かな行為だからね。
「います、いますよ。スッゴく近い波動です」
まだ目を閉じ、辺りを警戒している。この人はやる気マンマンのようだ。
「イオナさん、それは勝てる相手なんですか?」
勝算はあるのか聞いてみた。
「勝敗なんて二の次ですよ。我らは正義の剣です。強敵だからといって、敵に背を見せられません」
しれっとした顔でこたえてくる。
やっぱこの人も天使族の頑固者だ。
勝敗よりも、名誉や大義を重んじる。それに巻き込まれる方はいい迷惑だ。
しかし、はじめは逃げるつもりでいたけど、この人だけを置いてはいけない。
「イオナさん、まずは様子を見ましょうよ。無理に戦う必要はないですよ」
説得するなら、1人より2人。
早く立ち去るためにも、エブリンに手伝ってもらおうと目配せをした。
が、エブリンはナゼか首を振っている。
「いいや、ワンちゃん。この鳥人間がヤバい原因だぎゃ」
エブリンが『ナゼ気づかない』といった死んだ目で伝えてきた。
「えっ?」と僕。
イオナさんもエブリンを見て、指を指す。
「んんっ、あーーーーいたーーーーー。コイツです。これが悪の権化ですぅぅぅうう!」
「待って、違うんです。これはエブリン、仲間です」
瞬時に状況が理解でき、慌てて誤解だと説明する。
「いいえ、これはエブリンでなくゴブリン。そんな事も分からないって、やはり混乱をしてますね」
「だーかーらー、違うんです。お願いだから落ちついて」
興奮しているイオナさん、その前で焦る僕。
手短に説明できるか心配です。これはかなりピンチかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます