第3話 青い悪魔をやっつけろ!

 薮のなかから出てきたのは、僕の天敵だ。


 そうなんだ。テラつく体に、流線形のシルエット。全ての攻撃を受けながす青い悪魔。それがひそんでいたんだよ。


『ピキィー』


「ス、ス、スライムぎゃーーーーー!」


 クリクリおめめの、やけに好戦的なスライムで、すでに臨戦態勢だ。


「ゴクリッ、エブリン気を付けて。もしかしたら、このスライムは、何人もの血を吸ってきた凶悪スライムかもよ?」


「ハッ、どうりで見た目は普通。いや、標準、違った。えっとー、とにかく私が散々痛い目にあわせてきたスライムと同じだぎゃ」


 2人ゴクリと喉がなる。いや、鳴りっぱなしで止まらない。


「ワ、ワンちゃん。どうしよう、逃げた方がいいぎゃ?」


「いや、あれは狩人タイプだ。もし背中を見せたら殺られるよ、ゴクリ」


「か、狩人って初めてきいたぎゃ」


「た、たぶんだよ……だって怖そうじゃん」


 相手も逃すつもりがなさそうだ。退路をふさいでくるよ。


「こ、こうなったら殺るしかない、いくよ!」


「うぎゃー、ワンちゃんはやらせないぎゃーーーーーーーーー!」


 すかさずエブリンは僕のまえに出て、スライムに挑みかかったんだ。


「うりゃ、そりゃ、とおーーーー」


 だけど。


「このー、このー、うー、ぜんぜん効かないぎゃーー」


 必死に戦っているけど、相手にダメージが入っていない。それどころか押され気味。


「エ、エブリン。いま助けるからね」


 僕は無我夢中になってスライムに掴みかかった。


「な、なんて強いスライムだよ。でもやっと出会えた仲間なんだ。や、殺らせないよ!」


「ワンちゃん……うおー、わたしだってーーーーーーーーー!」


「そうさ、1人より2人だよ。力を合わせればー、うおーーー!」


 なんて考えたけど現実は甘くなかったよ。

 僕ら2人ともGとGマイナスの、弱小コンビ。スライムにさえ歯がたたないんだ。


「ワ、ワンちゃんだけでも逃げて。ここはわたしが食い止めるぎゃ」


 なんて健気なんだ。自分だって怖いはずなのに、僕に気を遣っている。こののことが愛おしくなってきた。


「グギギー、は、はやく。もたないぎゃ」


 この娘を死なせたくない。な、なにか手はないのか。必死になって考えた。

 焦るけどアイテムもないし、エブリンのHPはガンガンと減っていく。


「ヤ、ヤバい。このままじゃあ……ハッ! ぼくってテイマーじゃん。スキル使うのをすっかり忘れていたよ」


 なにせ、いきなり始まった戦闘。

 手順がわからず、ド素人まるだしだ。


「エブリン、いくよ。能力アップ《1/神》」


 僕は支援スキルをエブリンにかける。

 唱えるスキルのエフェクトで、エブリンは少し震えている。


「え、え、え、何これ?」驚きを隠せないエブリン。


「まだまだー、慈しみの1/神


「す、すごいぎゃ。力がみなぎってくるぎゃ」


「気を抜かないで、スキルアップ《1/神》」


「キタキタキター!」


「会心率アップ《1/神》 これでどーだーーーーーーーーーーー!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 雄叫びをあげたエブリンは、仁王立ちになっている。


 僕のスキルが破格な性能だ。従魔の能力値をあげ、トータルダメージを2倍にする。


 とはいえ、所詮は物理戦闘力Gマイナスで、しかも僕自身にはきかない。

 スライムの能力に届くかさえも怪しい。ギリギリの戦いであるのは変わらないんだ。


「それでも相手は格上だ、慎重にいくよ」


「イヒヒヒヒヒッ、この力なら殺れるぎゃよ」


 イタズラっぽく笑い、手招きをして挑発をしている。

 ダ、ダメなパターンだ。自分に酔っている。


『ピッギーーーーーーーーーー!』


 スライムもこれに反応し大激怒。最終形態なのか微妙に色を変化させている。


 でもエブリンはお構いなし。ニヤリと笑いジャンプした。

 そして振りかぶる拳が……あれ、光っている?


「いくぎゃ、エブリーンパーーーーンチ!」


 ──バッキョーーーーーーーーーン!


『ピッギーーーーーン』


 なんとエブリンの攻撃は、相手にダメージを与えるどころの騒ぎじゃなかった。


「えっ、スライムが蒸発したあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」


 それだけじゃない。叩きつけた勢いで地面でさえも陥没。超ド級の破壊力だ。


「ワンちゃんのパワーすんごいぎゃ。これがあれば、私はこの世で最強ぎゃーーーーーーー!」


 勝利の雄叫びをあげている。


 どうやっても勝てなかったあのスライムが、か、確実に死んでいる、す、す、す、すすすす凄いぞ。


「や、やったーーーー。エブリン、偉ーーーーーい!」


 嬉しさのあまり抱きよせ、エブリンの頭をナデナデした。


「やったー、やったー、こんなに強いなんて、ぼ、僕はぁ、僕は幸せだよ」


 ちからいっぱいナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナデナデ、ナ……ハッ、しまった、やり過ぎたかも。


 仮にもエブリンは女の子だ。急に抱きつかれたら、嫌がっているかもしれない。


 嫌われたらどうしよう……っ。


 そう心配をしながら、エブリンを見ると。


「えへっ、えへへへへへへへへへっ」


 あれ、嫌がっていない、むしろ喜んでいる。

 手を離そうとしても、逆に頭を押しつけてくるよ。


 仕方なく、そのまま頭を撫でて褒めていると、うっとりとした目でしなだれてきた。

 こういうのは、他の従魔と同じだな。


「ワンちゃんを守れて良かったぎゃ」


 うっ、これこそが従魔なんだ、感激だよ。

 人生初めてのテイムと勝利、そしてウルルン。一気に全てが動き出した。


「でも、なぜあれ程の威力が出たんだろ?」


 その答えは、エブリンの何気ないひと言で判明したんだ。


 それで僕は確信したよ。僕にはこの子が必要なんだって。

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