第2話 初テイム

 僕はいま、秘密の場所にきて薬草摘みをいている。


 というか、弱い僕にはこれしかない。


「それにしてもネームドモンスターか……いったい何処にいるんだよおおおおおお!」


 たまらず大声で叫んでしまった。1人での解放感がなせる技だよ。


 ネームドモンスターの事は、以前から調べているけど、分からない事だらけだ。

 その出現場所や条件などに規則性はない。


 それに殆ど目撃されないし、狂暴で強大な存在である。

その為、高ランクでない限り情報を持ち帰らないからだ。


「一目でいいから会いたいっなっと」


 気持ちがこもってしまい、ちょっと乱暴に採取する。


 分かっている事は、彼らは自我が強く、同じ種族の中でもとりわけ知能が高い。

 それがあるせいなのか、何者にも屈しない高いプライドを持っているってことだ。


「僕がテイム出来るか不安だけど、ジョブを信じて探すしかないんだ。でもまぁその為にも、まずは資金調達なんだよね」


 おっと、また独り言かと苦笑いをした。


 テイマーギルドに入る前、孤児の僕はいつもお腹を空かせ、生きる為によくここへ通っていた。


 袋いっぱいに採ると、2万Gゴールドにもなり、5~6日は楽に暮らせたんだ。


「よーし、昔みたいに採りまくるぞぉ」


 気合いを入れて腕まくり。



 夢中になって採っていると、僕以外にもう1人いることに気がついた。


「いつの間に来ていたんだろう、不思議だなぁ」


 でもここは立場の弱いみんなの場所。邪魔にならないよう、少し離れる。


 ――ガッ、ガッ、ブチッ、ブチッ


 すごい勢いで採っている音。乱暴じゃないかなと気になって、ちょっと見た。


「うぎゃ、うぎゃ、うーっ」


 唸りながら採っている。


 僕より年下の女の子。服は粗末でとても汚れていて、きっと貧民街の子だよ。

 この子も生きるため頑張っているんだ。


 ――ブチッ、ブチッ、モシャモシャ


 でも、よく見ると。


「薬草をそのまま食べているじゃん!」


 あんな苦いのを。よっぽどお腹がすいているんだな、かわいそうに……。

 空腹のツラさは、経験した者にしか分からないよ、うん。


「ねぇ君」

「ギャ?」

「これ、よかったら食べて」


 ランチにと買っておいたサンドイッチを、思わず差し出してしまった。


「グゥーーーーーーーーッ!」


 女の子の腹の音が、大きく鳴り響いた。

 それを恥ずかしがりもせず、女の子は僕の手から、サンドイッチを奪うようにもっていく。


 そして一心不乱に食べる、食べる、あっ、喉につかえたな。


「あっ、待ってよ。ほらお茶だよ」


 お茶を出すと飲む、飲む。で、食べる、食べる、食べたら全部失くなっちゃった。


「しまった、僕の分が……」


「ふぅー、マンプクー、生き返ったぎゃ」


 ニッコリ笑った顔は人懐っこくて、ベリーショートの髪型と、エメラルド色の瞳が印象的な女の子だ。


 いや、今のは控えめに言いすぎた。

 端的にいえば、ドキドキするくらいカワイイ女の子だよ。


「ははは、良かったよ。じゃあ僕はこっちを採るからね」


 でもここに来た目的はお金稼ぎ。


 僕は女の子に持っていた飴玉もあげ、薬草摘みを再開させた。

 お昼は残念だけど、人助けが出来て良かったよ。その分いっぱい採ればいい事さ。


「ねーねー、ご主人様。なんで食べずに袋に入れているぎゃ?」


 あらら、この子ついて来ちゃったよ。


「売ってお金にするためだよ。ってか、ご主人様って何さ、あははは」


 僕は変なノリだなと思ったけど、この子に合わせてみた。


「ご主人様はご主人様だギャ。こんなカワイイご主人様で、私はツイテいるぎゃ」


 んん、ちょっとイタイ子かな。それとも新手のサギ?


 戸惑っていると、女の子は僕の真似をして、薬草集めを手伝いだした。

 やらなくていいよと断っても、やりたいと笑顔で袋に入れてくる。


「よいしょ、よいしょ、ふぅーっ」


 仕方がないので、ちゃんとした取り方を教えると、大人しく聞いている。


「おおぉ、これだとキレイに採れるぎゃ」


 さっきみたいに乱暴なやり方じゃなく、教えた通り優しく丁寧に扱っている。

 人の言う事をしっかりと聞くし、飲み込みも早い。

 そして、他人の手助けをしようとするなんて、貧民街の子供にしては珍しい子だよ。


「君……、いい子だね」


「えへへ、ご主人様の役に立てて嬉しいぎゃ」


 この子のおかげで、すぐ袋はいっぱいに。

 不意にできた連れに戸惑ったけど、悪い子じゃなさそうだ。

 見た目が凄くカワイイし、それ以上に純粋だよ。


「うーん、ご飯で手懐けた手前なぁ」


 このまま放ったらかしには出来ないし、送り届けると決めた。


「ねぇ、君はどこの子なの?」と聞いてみる。


「私、ゴブリン族のエブリンだぎゃ。よろしくね、ご主人様」


 満面の笑顔で答えてくる。やっぱり変な子だ。

 ゴブリンってなんのジョーダンさと、なにげにこの子のステータスを覗いてみたら。



 名前:エブリン(ネームド)

 種族:ゴブリン

 物理戦闘力:G-

 魔法戦闘力:G-

 スキル:エブリン流格闘技

 称号:笑顔の増幅者

 従魔契約者:ワンダーボーイ



「ええぇぇえ、ツッコミ所多すぎだーーーーーーーーーーー!」


 僕は絶叫、そして放心、思わずこの子をガン見した。


「どうしたぎゃ?」


「あわわっ、ええっと、ネームド……ゴブリン……Gマイナス、従魔って?」


 どう見てもゴブリンには見えない。いたって健全な美少女だ。

 でも、信じられない現実が目の前に!


「つ、つ、遂にネームドモンスターを発見したよ。こんな近くにいただなんて……僕は、僕はああぁ!」


 あまりの感動で、頭と体がリンクしない。で、でもうれしい、うん、スッゴく嬉しいよ。


「エ、エブリンって言うんだね。僕はワンダーボーイ。よ、よろしくね」


「ワンちゃんかぁ、エヘヘ。わたしも嬉しいぎゃ」


 その返事で僕の心はたされたよ。

 でもひとつ疑問がわいてくる。


「ねえ、従魔の契約をしていないのに、なぜ僕の従魔になっているの?」


「だってご飯をくれたぎゃ」


「た、たったそれだけの理由なの?」


 たかだか1食分のサンドイッチだ。それが決め手になった?


「〝たかだか〞じゃないぎゃ、あれで救われたぎゃよ。ワンちゃんは命の恩人で、私の大事なご主人さまぎゃ」


 感無量、拳をにぎりしめてうち震える。

 そんな僕を、この子はニコニコと眺めてくれている。


 もっと色々と聞こうとしたのだけど、その余韻はながくは続けられなかった。


「あれれれ、ワンちゃん。あそこに何かヤバいのがいるぎゃ!」


 指さす薮の奥を見ると、そこにはただならぬ雰囲気が!

 僕はゴクリと喉を鳴らしてしまったよ。



 ============


【あとがき】


 読んで頂きありがとうございます。いかがでしたでしょうか?


「面白かった!」


「続きが気になるかも」


「まあ頑張れよ」


 と思ったら、【ぜひ作者に勇気を与えて下さい】


 レビューでのお星評価やブックマークをしてもらえると、本当に嬉しいです。執筆に力がはかどります。

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