第72話
「‥‥ももちゃん」
柊生の声で目が覚めた私は手に温もりを感じた。
私が目を覚ますまで柊生はずっと手を握っていてくれていた。
そして、優しく涙を拭ってくれた。
「よく頑張ったね」
「ありがとう」
「まだ寝てていいんだよ」
「うん」
まだ頭がぼーっとしていた私はしばらく休んで、結局夕方頃病院を後にした。
病院を出ると冷たい風が体に当たる。
「なんか食べられそう?」
「うん、不思議とね食欲湧いてるんだ」
「そっか、でも寒いから家で俺が何か作るよ」
「ありがとね」
私たちはコインロッカーに置いていた荷物を取ると、柊生の家に向かった。
しかし、柊生は家の方とは別の道を進む。
「柊生どこ行ってるの?」
「ん?秘密だよ」
「家帰らないの?寒いよ」
「あっ!ごめんね、すぐ着くからもう少し待って」
そう言いつつ知らない道を進むと来た事のないアパートに着いた。
そして、柊生は徐に鍵を取り出して開けた。
「ここ何処?」
「まぁいいから入って」
一階の角の部屋を入ると、そこは1LDKほどの広さで、生活感が溢れていた。
「ねぇ、柊生ここ誰の家?勝手に入っていいの?」
「実はね、ここ俺んちなんだ!正確にはももちゃんと住む家だよ」
えっ?私と住む家?
「私聞いてないよ?」
「サプラーイズだよ!ビックリした?」
柊生は嬉しそうに手を広げた。
「ビックリしたっていうか‥‥いつの間に?」
「ももちゃんがうちに来た頃から考えてて、ちょくちょく出掛けてたのも、こっそり探してたんだ」
「そうだったの?」
そういえばその時は浮気でもしてるんじゃないかって心配してたっけ。
「‥‥嬉しくない?」
戸惑っている私の表情を見て不安そうな柊生。
「えっ?そんな事ないよ。突然の事で驚いただけだよ」
「ならよかった」
「でも未成年が契約出来るの?」
「一応姉貴が契約はしてくれたんだけど」
「そうなんだ」
「でも家賃とかは自分でちゃんと払うし心配しなくていいよ」
「払うって言ってもどうやって?」
「俺仕事も見つけてきたから大丈夫だよ」
「仕事って何の仕事?」
「工事現場の仕事だよ!来週から行くようになるから日中は一緒に居られないけど、ももちゃんはゆっくりすればいいからね」
「いないんだね‥‥」
「そんな顔しないでよぉ、行きたくなくなるじゃん!」
「ごめん」
なんだか柊生が急に大人に見えてきて嬉しいような寂しいような複雑だ。
「ももちゃんを支えていくからにはしっかりしないとね!」
「そうだよね。ありがとう」
「じゃあ早速ご飯作るからその間荷物の整理とかしておいでよ」
「うん」
私は柊生に言われた通り荷物を整理するためクローゼットを開け服をしまった。
家具や家電も全部揃えて私の事待っていてくれていたなんて柊生は本当に私の事しか考えていないんだと思うと、とても愛されていると実感した。
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