第9話


 外に出ると風もすごくて吹雪の中冬馬さんの車まで早歩きで向かう。

 やっとの思いで車に乗り込む。もちろん後ろの席は荷物でいっぱいだった為助手席だ。


「思ってた以上にすごい雪だね、これ帰れるのか?」


「ちょっと不安になる事言わないで下さいよ」


「ごめんごめん、うちまですぐだから大丈夫だよ」


 雪で前もまともに見えないまま低スピードでなんとか冬馬さんの家の駐車場に到着した。


「よっし、どうにか帰れたね」


 駐車場からアパートの部屋までまた早歩きで向かう。


「おじゃまします‥‥」


冬馬さんの部屋は几帳面な性格が出ていてとても綺麗だ。


「適当に座って」


 そう言われたのでとりあえず座布団の上に座った。


「そんなちょこんと座らなくても楽にしていいよ」


 冬馬さんが笑いながらあったかいココアを入れてくれた。少し緊張していた私だったが、ココアを飲むと自然とホッとした。


「お腹空いたでしょ?適当に作るからゆっくりしといてよ」


「ありがとうございます‥‥」


 なんだかお客様って至れり尽くせりで悪くないかも。


 キッチンに立つ冬馬さんの後ろ姿を眺めながら、だんだんと暖かくなる部屋に、バイト終わりの疲れも相まって眠くなっていた。


 そして座ったままうとうとしていると目の前にいい香りと共に料理が運ばれてきた。


「すぐ出来るものがこれしかなくて」


 そう言いながらパスタをテーブルに置き、フォークを渡してくれた。


「わぁ、美味しそう‥‥」


 つい心の声が漏れてしまった。


「ふふっ、冷めないうちにどうぞ」


 冬馬さんと向き合いながら食事をしている、なんか不思議‥‥。


 お腹が空いていた事もあり、あっという間に完食した。


「さて、始発は多分大丈夫だろうから、それまで何するかな?」


「冬馬さんは休んで下さい、私はスマホで漫画でも読むんで」


「そう言われてもね、一人で寝ない自信ある?」


 さっきうとうとしていたのを見られていたんだ。


「まぁ‥‥がんばります」


「そうだ、映画でも見る?」


 映画?それはもう恋人がする事で‥‥。


「ちなみに何の映画ですか?」


「ゾンビ映画」


「見ましょう」


 まさか冬馬さんと好きなものが同じだとは思わなかった。


「ごめんその前にシャワーだけいいかな?」


「もちろんです」


 流石に私も汚いかなとは思ったが、シャワーまで借りる図太さはないもので、言い出せなかった。冬馬さんは10分ほどで出てきた。


「ももちゃんも入りな、って言いたいけど、どうする?パジャマなら新品は一応あるけど」


「‥‥お言葉に甘えていいですか?」


 結局気持ち悪さには勝てずシャワーを借りる事に。このシャンプーめっちゃいい匂いだし、高そう‥‥。ボディーソープもお肌つるつるになるし冬馬さんって意外と女子力高め?


「シャワーありがとうございました」


「シャンプーとか言い忘れてたけど分かった?」


「はい、大丈夫でした」


 歯ブラシまで新しいのをもらい、もう、いつうっかり寝てしまっても大丈夫な状態だ。冬馬さんは映画を見る準備をしている。


「ここおいで」


 冬馬さんが自分の横をポンと叩いた。


「あ、はい」


 冬馬さんと私はテレビが見やすいようにベットを背もたれにして隣同士に座った。気持ち離れておこう、冬馬さんも一応男、それだけは忘れないようにしないと。


 と思いつつもいざ映画を見始めるといつの間にか見入ってしまっていた。歯磨きをしたというのにコーラとポテチまで用意してくれて、夜中にゾンビ映画を見ながら食べるなんて最高過ぎて幸せさえ感じていた。


 ふと時計を見るとすでに深夜2時を回っていた。映画が終わると冬馬さんがベランダに出たので私もなんとなく着いていく。


「うわっ!寒くないんですか?」


「寒いけどね、少し眠気を覚まそうと思って」


 そう言いながらもブルブル震えている冬馬さん。


「風邪引きますよ、入りましょ?」


「そうだね」


 今思えばこの時既に冬馬さんの手のひらに片足を突っ込んでいたんだろうなぁ。


「冬馬さんはこたつ出さない派なんですか?」


「うん、こたつはね一回入ると出られなくなるから俺には無理だと思って買ってないよ」


「私は断然こたつ出す派ですけどね。こたつでみかんとか最高ですよ」


「こたつにみかんは簡単に想像つくね」


 私と冬馬さんはベランダから戻った後も気付けばさっきと同じ場所に並んで座っていた。それにしても会話が続かない。話をしてないとあくびが止まらない。


「ももちゃん、辛そうだし寝ててもいいよ?」


「いや、大丈夫です」


「そう言いながらずっとあくびしてるじゃん。時間になったら起こしてあげるよ」


「いえ、大丈夫です」


「頑なだなぁ」


 無防備な姿を見せるのは流石に恥ずかしい私は睡魔と戦いながら話題を探していた。


「そうだ、眠気が吹っ飛ぶような話聞きたい?」


「はい!是非お願いします」


「俺実は‥‥」


「実は?」

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