第10話
「ももちゃんが好きなんだよね」
「そうなんですか。‥‥‥‥って、え?」
「どう?眠気覚めた?」
「あの、ちょっと待って下さい。冗談ですよね?」
「俺がそんな冗談で告白するようなやつに見える?」
見えない。冬馬さんは間違っても人の心を弄んだり、ましてや冗談で告白なんてするような人ではない事は普段の真面目さからして分かる。
「えっと‥‥」
「突然で困るよね、でも今しかないって思って言っちゃった」
「私は‥‥」
「別に返事が欲しいとかじゃなくて自分の気持ちを伝えたかっただけだから気にしないでいいよ」
気にしないでと言われてもこの状況で後何時間も同じ部屋にいるのに無理がある。
それに‥‥‥。
「いつから‥‥なんですか?」
「いつからだろうね、割と最初の方かな。でもバイトに手を出すのはさすがに気が引けたから、ももちゃんに彼氏ができた時は正直ホッとしたよ。自分の気持ちを抑える理由が出来たってね」
「全然気が付かなかったです」
「けどね、思いは増すばかりで、結構辛い毎日だったし、彼氏と自然消滅だって聞いた時は嬉しい気持ちと、これ以上一緒にいたら自分は抑えられないかもという怖さもあった」
「‥‥‥‥‥」
「でも今日うちに連れてきたのに下心は一切ないから。そこは安心して欲しい」
私も冬馬さんの事を信用していたから来たのであって、告白を聞いても悪い気はしなかった。むしろ、私の事を真剣に思ってくれていた事が嬉しくもあり、少し胸がギュッとした。
「‥‥はい」
「なんか眠気は覚めたけど妙な空気にしちゃったね。ごめん」
「謝らないで下さい」
私たちの間に沈黙が流れていたその時私のスマホが鳴った。
「こんな時間に誰だろ‥‥‥あ」
私はスマホの画面を見つめていた。
「出ないの?」
「柊生です」
「あぁ、彼氏の?」
「元だと思うんですけど。なんだろ」
「出ていいよ、黙っておくから」
「分かりました」
冬馬さんに言われた通り電話に出た。
「もしもし」
「ももちゃん?雪で電車止まってたってさっき知ってさ、ちゃんと帰れたか心配で」
久しぶりの電話の内容がこれ?自然消滅していたと思っていたのに。
「もう私達は自然消滅してるよね?」
「‥‥あの時はごめん、すぐ謝りたかったけどプライドが邪魔して言えなかった。ももちゃんから連絡があると思ってたからどんどん自分からは連絡しづらくなってた。でもどうしても心配になって電話した」
「そう」
「どうやって帰ったの?」
「帰ってないよ。今は店長の家にいる」
すると冬馬さんが少し驚いた顔をした。
「なんで店長の家なんかに‥‥」
「歩いて帰る事も出来ないし始発まで居させてもらってるだけだよ」
「そうだよね‥‥歩いて帰すのも危ないし、俺んちに来るにしても親がいるから難しそうだし。とにかく変な事されないように気をつけてよ」
「そんな事する人じゃないから」
柊生との間に気まずい雰囲気が流れていた。
「とりあえず明日連絡するよ」
私は柊生にそう言い電話を切った。
「心配してかけてくれたんじゃないの?」
「そうみたいです」
「ももちゃんはどう思ってるの?」
「私はやっぱり‥‥最初は好きで付き合ったわけだし、事情も聞いて納得したので、話し合いは必要かなと思います」
「そっか」
何故か冬馬さんのガッカリしたような顔に胸がチクっとした。
「でも少し幼稚なんですよね」
「彼氏が?」
「そもそも自然消滅したのも向こうが一方的に怒って連絡してこなくなったのが原因ですし」
「若い時はそんな喧嘩も沢山してお互い成長するもんだよ」
「そうなんですかね」
少し気まずい、やっぱりこの状況で何もしないのは間が持たないと思ったが、その後は冬馬さんが話題を変えてくれて、好きなペットの話とか家族構成とかの話をした。
「そろそろ時間だね、駅まで送るよ」
「はい」
私は服を着替え、パジャマは洗って返すと伝えて持って帰る事にした。
駅までは車で15分程だ。
「ありがとうございました」
軽く頭を下げて車を降りる。
「気をつけてね」
冬馬さんはそう言うと帰って行った。
私は始発電車に揺られ家に帰ると眠気と疲れがピークに達していた為速攻ベットに入り爆睡した。
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