094:勇者は逃走する④ ~追放サイド~
クソッタレ、クソッタレ、クソッタレ……!!
どうする!?
どうすれば俺は生き残れる!?
ミクールが余計な事を言うから面倒な事になった。
クリムは舌打ちを飲み込みながら思考をフル回転させた。
俺様はこんな所で死ぬワケにはいかない。
勇者がこんな所で死ぬワケがないんだ。
「ミクール、魔力は残っているか!?」
「え、あ、はい! でも少しです。大技なら1発分あるかどうか……!」
「充分だ! ヤツはもう瀕死なんだ。お前が大技で止めを差せ!」
「えっ!? で、ですが……勇者さまたちに倒せない相手に」
「大丈夫だ! さっきも言っただろう。俺はさっきまでヤツと戦っていた! もう少しで倒せる所だったんだ!」
「で、でも……!!」
「俺は最初の合体技で魔力がかなり減ってしまっている! 今、あの化け物を倒せるのはお前だけなんだ! ミクール、お前ならできる! 頼む! 俺たちを救ってくれ!! そうすれば次の勇者はお前だ!!!!」
「っ……!! わ、わかりました……!!」
もちろん全てが大嘘である。
だが、ミクールを信じ込ませることはできた。
勇者の称号は人類の全冒険者が求めるモノである。
それが思いつきで口にしただけの薄っぺらい言葉であっても、ミクールの勇気を奮い立たせるには効果抜群だった。
「振動でヤツの位置は把握できる。俺の合図でぶっ放せ!」
「は、はい!!」
ミクールはクリムの前にたち、魔法剣を構えた。
松明はクリムが受け取り、ミクールは攻撃だけに集中する。
クリムは壁に手を当て、振動から敵の位置を探ろうとした。
だが、まるで分らない。
(こんなのでわかるワケねぇだろ……!!)
そんな器用な真似ができるのは勇者パーティでもキキーかアイリだけだろう。
だが、クリムにはそんなことはどうでも良いのだ。
距離は分からなくても、サンドワームが近づいて来ている事くらいは分かる。
「来るぞ! ……今だ!!」
振動が強くなったところでクリムは合図を出した。
クリムの推測が正しければ、このタイミングが正解であるハズだった。
「フゥーーー……行きます!!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ミクールの魔法剣から、極大の炎が放たれた。
炎が空洞を満たし、螺旋を描くように駆け抜ける。
熱された空気が膨張し、その衝撃で壁が破壊されていく。
巻き起こる砂煙すらも焼き尽くすスキルの威力にミクール自身も驚いていた。
披露と恐怖の中で精神状態はベストコンディションからは程遠い。
だがその威力は今までとはケタ違いだった。
極限の状況がミクールに秘められた力を目覚めさせていた。
(クリム様の言う通りだ! これなら……今の私なら勝てる!!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
全身全霊で放った大技の威力は絶大だ。
その代償のように全身から力が抜けるようだった。
だが、決めるならこの一撃しかない。
ミクールは全ての魔力を振り絞った。
高密度の炎が駆け抜けた後、ミクールの目の前には大穴が出来上がっていた。
だが、もちろんそこにサンドワームの姿はない。
やったのか?
違う。
振動はまだ消えていない。
「手応えが、ない……!? クリムさま、敵は……」
振り返ろうとしたミクールを、クリムが全力で蹴り飛ばした。
「なっ!? きゃああああああああああああああああ!?!?」
ミクールは目の前にできた大穴に落ちていく。
その穴は深く暗闇へと繋がっていた。
ミクールの姿はあっという間に見えなくなった。
「良くやった、ミクール」
これで良い。
あれだけの大技を使えば、サンドワームの標的はミクールに移っただろう。
そして下も空洞がある可能性が高い事はさっきの流砂から分かっていた。
どこまでも落ちていけ。
そして囮として役に立ってくれ。
クリムは最初から、ミクールの大技が不発に終わっても構わなかった。
命中したとしてもあのサンドワームを倒せるとも思っていなかった。
大事なのはミクールに大きな魔力を使わせる事。
そしてミクールの体力を消耗させる事だ。
とっさに考えた策だったが、予想以上に上手くいった。
やはり俺様は選ばれているんだなぁ……。
そんな愉悦の表情を浮かべるクリムの背後から声がした。
「ク、クリムさま……?」
振り返るとそこには、信じられないような物を見たという表情で震えるエイサが立っていた。
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