092:勇者は逃走する② ~追放サイド~
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ひぃっ……!?」
ズン、ズズン……。
パラパラ……。
サンドワームの奇声がダンジョンを揺らし、不安定な空洞には天井から砂の雨が降る。
クリムはいつサンドワームに襲われるか分からない恐怖と、そしていつ自分が生き埋めになるか分からない恐怖の、二重の恐怖に怯えながら暗闇の道を進む。
「クソッタレ、何で俺がこんな目にぃ……!!」
クリムは自分の口からでた情けない悲鳴を自覚して、苛立ちながら毒吐いた。
勇者にとってダンジョンは主戦場であり、独壇場であるハズだった。
クリムにとってモンスターを倒す事は他の何よりも得意とする事である。
そのモンスターを相手に、なぜ自分がこんな恐ろしい思いをしなければならないのか……。
クリムにはそれが理解できないのだ。
(こんな場所からは1秒でも早く離れなければ……)
クリムはダンジョンの空洞を這うようにして、赤子のようにゆっくりと進んだ。
手さぐりで道を確かめながら、静かに、そしてできるだけ迅速に前進する。
すると突然、その手がズブブッと砂に沈んだ。
「えっ?」
何が起きたかもわからない内に、そこからボロボロと地面の砂が崩れた。
それは一瞬の出来事で、暗闇の中にいるクリムに状況を理解する余裕などなかった。
そのままズルズルと崩落に飲み込まれてしまう。
「しまっ……うおおおおおおおおおおおお!?!?」
実はクリムが進んでいた空洞のその下にも空洞が出来ていたのだ。
それに気づいた時には崩落から生まれた流砂に体を引きずり込まれてしまっていた。
ズザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「うごごごごごごっ!?!?」
全身の穴と言う穴から砂が入り込み、クリムは悲鳴すら上げられなまま流されて落下していった。
グルグルと体が回転し、すぐに上下も前後も分からなくなる。
「うべっ!?」
唐突に砂の流れから吐き出され、クリムは地面に叩きつけられた。
運よく流砂から抜け出す事ができたらしく、砂の中で窒息せずに済んだ。
「ゲホッ、ガハッ! ペッ、ペッ!!」
ジャリジャリと口の中で不快な音を立てる砂を吐き出し、目をこする。
顔を上げると、そこには暗闇ではない明かりがあった。
「ク、クリムさま!?」
心配するようにクリムを覗き込んでいたのは、サブパーティの2番手である火の魔法剣の使い手ミクールだった。
しかも、ミクールは明かりを手にしている。
それは魔術の明かりではない。
松明の炎だ。
「おぉ、ミクールか! 無事だったか」
エイサとミクールは囮としてとっくに死んだと思っていたが、生きていたのは嬉しい誤算だった。
さらにしっかりと暗闇で明かりを確保するための松明を持ってきていた。
「クリムさま! 良かった、ご無事でしたか……エイサも無事です。2人で手分けして脱出ルート探していました。あの、オリバさまとアイリさまは……?」
「わからない。あの化け物が暴れるせいでダンジョンはめちゃくちゃだ。俺は1人でヤツと戦っていたんだが、砂の流れに飲み込まれてここまで落ちてしまった。クソ……そうでなければ、あと少しで倒せていたんだがな」
息をするように見栄を張りながら、クリムは立ち上がった。
どうやらサブパーティでは1番手の実力者だったエイサも無事らしい。
今は分かれて行動しているようだが有能なエイサのことだ、合流するための手段くらいちゃんと考えているのだろう。
クリムはミクールから見えないように、ひそかにニヤリと笑っていた。
(よし、良い囮が手に入ったぞ……! これなら少しくらい魔力を使って感知されても逃げ切れる!!)
最深部までの道中でサンドスケルトンは殲滅してきたが、ここまでダンジョンの形状が変化しては砂に埋もれていた死体が掘り起こされていてもおかしくはない。
ザコモンスターのサンドスケルトンでも魔法剣のスキルなしでは勝ち目がないのだ。
これでいざとなれば魔法剣を使える。
それにこの2人は、オリバとアイリには劣るが充分な戦力にもなる。
(フフフ、俺様を活かすための囮としては申し分ない! やはり俺様は選ばれている……)
クリムは自分が生き残るためだけに脳ミソをフル回転させ続けていた。
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