091:勇者は逃走する① ~追放サイド~
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
暴れまわるサンドワームにより荒野のダンジョン、砂龍の地下墓の深部は崩壊を続けていた。
「ハァ……ハァ……。クソッタレ…………!!」
勇者クリムはまだ何とか生き延びていたが、切り札である大技を使った事により疲労困憊で歩くこともままならなかった。
危機的な状況へ悪態を吐きながらも、その息を潜めて体力と魔力の回復に専念している。
勇者といえどクリムもただの人間だ。
人間は魔法剣なしではザコモンスターのサンドスケルトンにすら劣るのである。
この状態でサンドワームに見つかるのは、即ち死を意味する事だった。
「チィ、暗くて何も見えねぇ…………」
クリムは魔法剣をしまっている。
魔力が残り少ない上に、その魔力を使えばサンドワームに感知される恐れがあるからだ。
今はとにかく生きて、そして逃げ延びる事を考えるしかない。
サンドワームがデタラメに砂中を掘り進んだため、ダンジョンには道が増えていた。
巨大な砂龍の通った場所がそのまま新たな道になっているのである。
「これって、もしかしたら……いや、そんなバカな事あるわけがねぇ」
これまで自分たちが進んできた巨大な地下空洞は、更に超巨大なサンドワームによって作られたものだったのではないか。
砂龍の地下墓というダンジョンは、実は本当にサンドワームの巣だったのではないか……なんて考えが頭をよぎり、クリムはそれを振り払った。
そんなバカな事はない。
もしもそんな巨大なサンドワームが存在していれば、今ダンジョンで暴れているサンドワームとは比べ物にならない程に巨大な化け物の中の化け物という事になる。
そんなヤツいるワケがない。
そんなヤツは存在してはいけないのだ。
勇者パーティに倒せないモンスターなどいるわけがない。
「フゥーーー……。落ち着け、最強勇者である俺様がこんな所でくたばるワケがねぇー……落ち着いて呼吸を整えるんだ……」
クリムは自分自身にそう言い聞かせて魔力の回復に集中した。
呼吸により体内の魔力を循環させ、活性化させていく。
ダンジョンに新しい道が増えた一方で、サンドワームが暴れた事やクリムたちの大技によって崩れれ埋まってしまった道もあるため、もう来た時のルート情報はアテにならない。
地上の光が届かない地下ダンジョンで、魔法剣のスキルも気軽に使えない状況である。
アイテムがなければ明かりすら用意できないが、そもそもクリムはこんな事態など想定していないため明かり用のアイテムなんて持ち込んでいなかった。
こうなればあとは音や風を頼りにルートを導いて出口を目指すしかない状況だ。
その手の攻略は風の勇者であるアイリの担当だった。
だが今はメンバー全てとバラバラにはぐれてしまっている。
(アイツら、無事なのか……? こんな時に、役に立たねぇヤツらだ……!!)
オリバとアイリはクリムと共に合体技のために大量の魔力を消費している。
クリムと同様に疲労困憊の状態だろう。
こうなっては2人が無事に生きているのかも分からない。
(クソッ……せめて誰かと合流できれば……)
サンドワームはそれまでの暗殺者のような砂中からの奇襲攻撃から一転して、脱皮してからはめちゃくちゃな大暴れを続けていた。
俺たちの攻撃が効いているからに違いない。
と、クリムはそれをあくまでもポジティブに受け取っている。
そして「もう一度、あの合体技をぶち込めば倒せるに違いない」と根拠もなく確信しているほどだった。
だが、合体技で倒せなかった相手に1人で戦いを挑むのはさすがのクリムでも無謀だと理解できている。
オリバとアイリの安否が確認できない今、魔力を回復したところで合体技は使えない。
だったら無理に戦おうとするより、このまま息を潜めてダンジョンから逃げ出した方が安全だった。
クリムはわずかだが魔力が回復して体が軽くなった所で、静かに手さぐりで暗い穴の中を進み始めた。
(クソッタレ、せっかく作った俺様のハーレムが台無しだ!!)
クリムの心にあるのは仲間を失ったかも知れない事への悲しみではなく、そんな欲望まみれの最低な気持ちだった。
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