090:人間界に迫る危機②
「正直に言えば、我は人間に興味はなかった。人間界を調査していたのはウォーカーたちの行動目的を探りたかっただけだ。だが、ダーリンが人間を守りたいというのなら我はそのための力になりたいと思う」
「俺は……」
ヴィータは迷っていた。
幼い頃から落選者として蔑まれ、さらには国外へと追放されるという仕打ちを受けた。
思い返してみてもかなりひどい扱いである。
だが、やはり同じ人間として放ってはおけない。
「守ってやりたいが、そう簡単ではないよな」
「そうだな。いくらダーリンが強くても、相手はどこから出てくるか分からない転移を使う。人間界は世界の一部でしかなく、とても小さい。だがそれでも全てを守るには広すぎる」
「アタシたちでも人間全員を助けるなんて事はできないわよ」
いくら何でも人間界すべてを守り切るなんて不可能だ。
特に転移を使われてはどこから攻められるかも予測できない。
「そこでその転移ポータル。大賢者は何でも知っている。そのポータルなら大きな門を開ける事ができる。準備には時間がかかるけど」
「エイリアンに滅ぼされる前に人間をこちらに脱出させるんだ。人類全員は無理だろうが、一部の人間は助けられる。人間界に残って守り続けるよりは安全だろう」
オトワの案は人間を守る事ではなく逃がす事だった。
「でも、そんな事して大丈夫なのか?」
人間はずっとモンスターと戦い続けて来た歴史がある。
そんな人間がいきなりモンスターが住む街に来たとなれば、大混乱が起きるのは間違いないだろう。
人間の世界よりもよっぽど平和なオトワたちの街に迷惑をかける事になる。
それはヴィータの望む事ではなかった。
「最初は隔離せざるを得ないだろうな。人間は長く争いすぎた。だが、そのための場所にも心当たりがある。人間の町一つくらいなら収まる」
オトワはそこまで考えて提案してくれていた。
「我は、ダーリンが望むのなら……人間を受け入れても良いと思っている。ダーリンの信じた人間ならばな」
「アタシは反対だけど、オトワが言うならね。それにアンタの事は信用してるし、一応は」
「私はモルモットが増える分には構わないよ」
元魔王たちの後押しを受けて、ヴィータの覚悟は決まった。
最後になんか怖い事を言っている大賢者がいたが、ヴィータは聞かなかったことにした。
「追放された俺の言葉が受け入れる可能性は低いが……忠告だけでもしてみようと思う」
いきなりエイリアンの話をしても信じてもらえないだろう。
転移の門を開いても、どれだけの人間が信じてついてきてくれるのか……。
ヴィータが守ろうと思っても、守れないかも知れない。
それでも何もしないワケにはいかないと思ったのだ。
「うん。それでこそダーリンだ♡」
「私のポータルにはオトワが君を連れて来た時の座標が記憶されている。その座標を君のポータルに共有しよう。そこからこちらで用意した臨時の人間収容領域につなぐ」
「そんなこともできるのか」
「大賢者に不可能はない」
言うが早いか、マインがポータルを起動し始める。
ヴィータのポータルがそれに連動するように光を放った。
「でも、このポータルどうやって起動するんだ? 俺、使った事ないんだが」
「心配いらない! もちろん我がついていくぞ!」
「ちょっとオトワ、アンタは止めといた方が良いんじゃないの? 勇者ってヤツらと戦ったばかりじゃない」
「嫌だ! 我はダーリンについていく!」
エノンが冷静に忠告するが、オトワは子供のように「行く!」の一点張りだった。
「まぁ、大丈夫だと思うぞ。多分、誰も気づかないから」
実はヴィータはオトワが勇者たちに恐れられる心配はしていなかった。
今のオトワの姿は人間が魔王と呼んでいた時とはまるで違うからだ。
きっと勇者たちにもただの美少女にしか見えないハズである。
「ポータルは我がマインと連絡を取って起動させよう」
「わかった。頼むよ」
「任せろ、ダーリン♡」
そうこうしている内にヴィータのポータルから輝きが消え、マインは準備を終えた。
「じゃあ行くか。人間界」
「うむ! デートというヤツだな!」
「こらこら、遊びに行くんじゃないわよ」
「ポータル起動」
マインがポータルを起動させ、転移の門が姿を現す。
「オトワ、連絡手段はどうする?」
「そうだな……エノン、人形を貸してくれ。このまま連れて行く」
「いいわよ。あんまり汚さないでよね」
「まかせろ!」
「元気良すぎて全く信用できないわね……まぁ良いわ。アタシは食事の用意をしておくから」
「うむ! たんまり頼むぞ!」
「じゃあ、行ってくる」
開いたポータルの向こうには、荒野の砂漠が広がっていた。
ヴィータはオトワと共にその門をくぐった。
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