089:人間界に迫る危機①
「おかえり、みんな」
ヴィータたちは転移ポータルを通ってマインの地下室へと戻って来た。
部屋ではマインの本体が出迎える。
「実りのある攻略だったな!」
「そうね。ウォーカーの情報は少しでも欲しいし」
「さっそく研究を進める」
ウォーカーの欠片を手に入れるという結果にオトワたちはテンション高めの様子である。
「動いたらお腹が減ったぞ! エノン、ランチにしよう!」
「はいはい。アンタは先に着替えなさいよ。人間もね。お姉さまも研究の前に食事にしましょう」
ヴィータとオトワはウォーカーの初手をまともに受けた。
肉体へのダメージは無いに等しいが、衣服がボロボロになるには充分な威力だった。
「わかった!」
部屋を出て行こうとするヴィータをマインが呼び止めた。
「ヴィータ、これを」
「なんだ?」
マインが差し出したのは小さな機械のような物だ。
なんとなくヴィータにも見覚えがある形をしていた。
「小型ポータルだ。君が倒したウォーカーが所持していたようだな」
「オーパーツか。でも、貴重な物なんじゃないのか?」
オトワたちはオーパーツを探す事がダンジョンを攻略する目的の一つだと言っていた。
差し出されたそれもそんな目的物の一つという事になる。
「今回、君はそれ以上の成果を我々にもたらした。正当な対価だよ」
マインは相変わらず無表情で、そもそも
だが、その声から確かな感謝の気持ちを感じる事ができた。
「おぉ、良いじゃないか! それにポータルはダンジョンからいくつか発見しているからな。一つくらい気にしなくて大丈夫だぞ!」
人間界では聞いたこともないセリフにヴィータの胸が熱くなる。
「そうか。じゃあ、もらっておく。ありがとう」
ヴィータは小さなポータルを受け取った。
ヒヤリとした金属の感触が手の平に伝わる。
「それに、これは君の選択にも役立つと思う」
「選択?」
「オトワ、例の話は?」
マインが問うと、オトワは少しだけ考える素振りをした。
「そうだな。ダーリンにはエイリアンとウォーカーの事も説明できたし……もう少し落ち着いてから話すつもりだったが、先に話しておこう」
「なんの話だ?」
「そう遠くない内に、人間界は滅びると思う」
唐突なオトワの言葉にヴィータは思考が停止しかけた。
「え?」
人間界が滅びる?
そんな急に、なんで?
「人間がモンスターと呼んでいたのはエイリアンだ」
オトワはゆっくりと説明を始めた。
「……そういえばマインが斥候だって言っていたな」
人間がモンスターと呼ぶ敵の正体はエイリアンだ。
だが魔界のダンジョンに現れたエイリアンよりはるかに弱い個体ばかりである。
それは斥候という偵察目的の弱いエイリアンが繁殖した結果だった。
「そうだ。つまり、いずれは本隊である強力なエイリアン……もしくはウォーカーたちが動く可能性があるんだ」
エリアボスのオーガや上位存在であるウォーカーがもしも人間界に現れたらどうなるのか。
オトワたちに瞬殺されたため実際の戦闘力は分からなかったが、ヴィータの目には魔界のオーガはSランク越えの強敵に見えた。
ヴィータ抜きでクリムたちがSランクのモンスターを倒した事は今までに一度もない。
ヴィータがいなくなった今、勇者パーティの手には負えないのだ。
ウォーカーはオーガよりもさらに格上だった。
そんな相手が攻めてくるとしたら……。
間違いなく人間はエイリアンに勝てない。
「ウォーカーはなぜか人間界を狙っている。斥候が放たれてから長い間ウォーカーたちには動きがなかったが、最近その動きに変化があった。我はその原因を調査していたんだ」
「そうだったのか……」
調査のために人間界に来たとは聞いていたが、それがエイリアンの調査だったとは。
人間の世界に魔界レベルのエイリアンが潜んでいたとしたら、確かにかなり危険である。
「エイリアンが何を狙っているのか、その詳細はわからないままだ。だが恐らく、狙いはダーリンたちがいた国だろう。あの辺りには大きなマキナの反応もあった。近い内に何かが起こると思う」
超大国ズァナルは人間にとって最高戦力となる冒険者があつまる国だ。
ズァナルが陥落すれば、それは事実上の人類の滅亡と言える。
誰も知らない間に人類は滅亡の危機に瀕していたのだ。
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