088:対ウォーカー、遭遇戦③
ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
ヴィータの拳が凄まじい打撃音をダンジョン内に響かせた。
人間の拳が叩き出すとは到底信じられないような轟音である。
その攻撃に防御モードの反射が発動するよりも先に、ウォーカーのその身体が砕け散った。
ヴィータの攻撃は通った。
反射されていたら、ヴィータもただでは済まなかっただろう。
「キュル!? キュルルウル!?!?」
ウォーカーが混乱したような声を上げたのを聞いて、ヴィータは思わず感心した。
「これでもまだ死なないのか」
美しい立方体だった防御モードのウォーカーの姿はバラバラに砕け散っている。
それでも普段使っている
普段から【超光拳】を使わないのは超脱力という準備が必要になるからだが、それさえする余裕があれば優秀な技である。
そんな威力の技を受けて、巨大だったウォーカーの身体のほとんどは衝撃で吹き飛んで小さな欠片しか残っていない。
ヴィータはウォーカーの無限かのように再生する触手から「どこかに本体と呼べるコアのような器官があるのではないか?」と考えていた。
スライムのオトワがそうであるように、このタイプのモンスターはコアを破壊されない限りはほぼ無敵だ。
(とっさにコアを逃がしたのか?)
攻撃によってウォーカーの身体の9割は消滅している。
だがまだウォーカーの機能は完全には停止していない。
たまたま攻撃がコアを外したとも考えられるが、確率で言えば低い。
表面上は何も動いていないように見えるが、体内では攻撃予測やコアを守るための行動が成されていたのかもしれない。
(それはマインに調べてもらえば良いか)
倒しきれなかったが、逆に考えれば生きたサンプルを得られたとも言える。
成果としては充分だろう。
「さっすがダーリンだ!!!!」
「うぉっ!?」
ウォーカーの欠片を回収しようとしたヴィータに、ドーン! とオトワが抱き着いてきた。
「すごい威力だな! 我と戦った時よりもすごかったぞ!? 全く、まだそんな技を隠していたなんて……ダーリンも意地悪だな♡」
と、オトワは新しく披露されたヴィータの技に目をハートにしていた。
「どんな策があるのかと思ったら、まさか真正面から突破するなんてね……ホントに信じられないわ。アンタ、絶対に人間じゃないでしょ……」
エノンは半ば呆れていた。
そしてもうヴィータが人間であることすら疑い始めていた。
それくらいにヴィータの身体能力、そして攻撃力が常識外れ過ぎるのだ。
「サンプル……!」
そしてマインは「サンプルゲット!」と珍しく興奮気味に目を輝かせていた。
と言うのは魔王城に残る本体の方であり、マイン人形の表情は変わらない。
代わりに目玉が犬の尻尾のようにピョコピョコと揺れていた。
それを見てヴィータは「多分、喜んでいるのだろう」と解釈した。
それからみんなでバラバラに飛び散ったウォーカーの欠片を回収する。
固形になってくれたおかげで回収しやすかった。
鏡面になった事も探すのには都合が良かった。
どうやら一度防御モードになったウォーカーは、最初の触手モードには戻れないらしい。
ヴィータ達は光を使って反射させたりしながら、無抵抗になったウォーカーを効率的に回収していった。
「さて、今度こそ戻るか! ダーリンのおかげでウォーカーの研究が大きく前進しそうだ! ありがとうな♡」
「ま、まぁ、悪くない活躍だったんじゃない? 合格ってことにしてあげるわよ」
「大賢者はとても感謝している。あとの研究は任せろ」
パーティのメンバーたちに褒められて、ヴィータはどうリアクションしていいのか困ってしまった。
褒められることになれていないのだ。
今まで、どれだけ活躍しても褒められるなんて事はなかった。
それでもただ自分の居場所を失わないために、ヴィータは戦い続けるしかなかったのだ。
楽しくなくても、辛くても。
自分にできる事は戦う事だけだったから。
「……俺にできる事をやっただけだよ」
ヴィータは、今なら胸を張ってそう言える気がした。
今も自分にできる事は戦う事だけだ。
けれど、仲間の笑顔のために戦う事は……思っていたよりも良い気分だった。
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