087:対ウォーカー、遭遇戦②
「なんだこれ?」
不定形だった触手の塊が、まるで金属のような真四角の物体に変わっていた。
ヌラヌラとした不気味な光はまるで鏡のようなツルリとした輝きへと変化している。
姿を変えたウォーカーは不気味に浮遊しており、生命活動を停止しているようにも思えなかった。
「ぐぬぬ、またしても仕留め損ねたか。これはウォーカーの防御モードだ!」
「はぁ~、いつものヤツね」
「大賢者は何でも知っている。一定以上のダメージを受けるとウォーカーはこうなる」
オトワたちはその姿に驚く事もなく、ヴィータにも平然と説明した。
臨戦態勢を解き、どこかうんざりとした様子だ。
「それにしても、また強くなってたな!」
「ホントね。重力魔術を攻撃だけじゃなくて妨害にも応用してきた……毎回、同一個体には思えない姿形で出てくるけど……間違いなく経験を積んでるわ」
「驚異的な成長速度。大賢者もびっくり」
口ぶりから何度かウォーカーと戦闘した事があるようだったが、まだ一度も仕留め切るには至っていない……そんなところだろうとヴィータは察した。
「どうするんだ?」
「うーん、こうなると我らの力でも決定的なダメージを与える事ができないからな」
「ただの時間稼ぎ状態ね。もうすぐ再転移が始まって逃げられるわ」
「サンプル……」
最後にマイン人形が悲しそうな声を上げた。
「これを壊せば良いんだろう?」
ヴィータが防御モードのウォーカーに触れようとする。
「ダーリン、気をつけろ。そいつはなんでも反射する。物理攻撃も例外ではないぞ?」
「いくら力に自信があるからってナメてかかると大怪我する事になるわよ?」
指で押してみると、確かに押した力が指に帰って来た。
殴ればダメージを受けるのは拳の方だろう。
だったらとヴィータは遺跡の欠片を拾い上げた。
頑丈な投石物ならいくらでもある。
「ふん!」
バキャンッッ!!
試しに投げつけてみると、欠片は砕けたがウォーカーの表面には傷一つ入らない。
そして砕けた破片が全く速度を落とさずに跳ね返って来た。
砕けた衝撃で周囲に飛び散るように広がる。
「ちょっとぉ!? あぶないでしょ!?」
エノンが切れ気味になったが、そう言いながら全て回避しているのだからさすが魔王だ。
オトワは回避するまでもなく、コアだけはしっかりと守っていた。
「どうだ? ダーリンのパワーでも無理か? 我は実は……期待していたりするぞ!」
確かにかなり厄介だ。
ウォーカーの防御力はかなりのモノで、人間とは比べ物にならない。
反射した攻撃を食らえば、人間の身体では耐えられない。
それはヴィータも例外ではない。
特にヴィータは「攻撃こそが最大の防御」を地で行くようなタイプだ。
自分自身の攻撃を受けることなど普通はないが、もしそうなれば即死するくらいには攻撃と防御のバランスが崩れている。
だが、オトワに期待されてしまえば応えないワケにはいかなかった。
「無理じゃないさ」
ウォーカーに触れてみて分かった。
反射にはほんのわずか……人間どころか魔王たちにすら感知できない程のわずかな時差があった。
それは当然の事だ。
反射とは、つまりは一度受けた力を跳ね返しているのだから、そのプロセスは「受ける」と「返す」に分かれる。
限りなく同時に近い速度で行われるため、よほど鋭い感覚でなければ気づけない。
魔法剣の力に選ばれず、魔力も持たず、だからこそ肉体を磨き続けたヴィータだからこそ気づけたのだ。
そして、それが唯一の突破口になる。
「ふぅーーー…………」
ヴィータは呼吸を正し、血液を全身の筋肉の隅々まで行きわたらせる。
そしてその状態を保ったまま力を抜いていく。
目指すのは完全な脱力。
普段、戦闘中にここまでの脱力は中々できない。
相手が受け身でいてくれるからこそ、時間をかけて理想の状態を作り出す事ができる。
「フッ」
わずかに体を捻る浅い構え。
そしてそこから放たれる、最大速度の打拳。
「天拳、第七之型……
人知を超えたヴィータの、そのマックスの速度で放たれる拳は光すらも超える。
その速度は破壊力へと変換され、必然的にそれは超高威力の必殺技へと昇華される。
「「「!?」」」
それは魔王たちすらも視認不可能な速度だった。
まるでヴィータの肩から先が消失したかのように見え、一瞬だけ遅れて閃光が走る。
――――パンッ。
閃光に追随するように空気が鳴った。
全体無敵の反射状態への攻略法。
ヴィータの答えはシンプルな物だった。
ただ反射されるよりも速く衝撃を与え、反射される前に破壊してしまえば良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます