086:対ウォーカー、遭遇戦①
「キュルル。キュキュル」
先制攻撃を仕掛けて来ておきながら、ウォーカーは何故か追撃をしてこなかった。
頭のような部位が複数、触手の塊から伸びて、まるで攻撃の結果を観察するかのように大きな目玉のような器官をヴィータたちに向けていた。
「なんだ、襲ってこないのか……?」
「相変わらず何を考えているのか理解し難いな。まぁ許さないが」
「でも敵意があるのは間違いないわ。油断しないでよね」
「サンプルが欲しい」
頭部同士はまるで会話するかのように鳴き声を上げている。
そしてその動きを止めたかと思えば、再び意表を突くように攻撃を始めた。
シュボッ!!
触手がヴィータたちをめがけて放たれる。
今度は先端が鋭く尖っていた。
打撃ではなく、刺突である。
ウォーカーはまるで実験でもするように攻撃パターンを変化させていた。
同時に重力魔術がヴィータたちを襲う。
が、歴戦の魔王たちに同じ手は何度も通用しない。
マインはすでに
初撃では自身の周囲しか展開する時間がなかったが、今はエノンだけでなくヴィータをオトワも巻き込んだ広範囲に展開できる。
ヴィータはわずかに体を傾けて攻撃を回避すると、殴って触手を爆散させた。
オトワは体を変形させて回避すると同時に触手を無数の輪切りにスライスした。
エノンは槍のような形状の骨の刃を展開して杭のように触手に撃ち込んだ。
三者三様に触手を無力化するが、次から次へと新しい触手が伸びて来た。
攻撃の度に触手の数が増えていき、激しさを増していく。
シュボボ、シュボボボボ!!
1人に向かってくる本数が1本から2本、2本から4本へと倍々に増加していく。
攻撃は速度も増して行き、触手が打ち出される際に発生する衝撃波だけでも人体に甚大な被害をもたらすほどの威力に達していた。
さらには高度な重力魔術までもそれに加わる。
圧縮された重力波は破壊光線と化して放たれ、周囲の景色を歪ませた。
そんな攻撃を回避し、受け流し、反撃まで行う。
魔王クラスだからできる芸当と言えるだろう。
その戦いは既に、人間の知る戦いの領域を遥かに凌駕した次元まで到達していた。
頑丈な魔界のダンジョンだったが、周囲の遺跡は破壊しつくされて地形すらも変形してしまっている。
ウォーカーの姿はドラゴンのような姿から変化を繰り返し、何者か例えようもなくなっていた。
平凡な人間から見れば、それはまるで天変地異をもたらす災厄のような光景に見えることだろう。
「ダーリン、力を貸してくれ! エノン、マイン、一気に叩くぞ!!」
「ええ、今回は仕留めるわよ!!」
「サンプル!!」
「わかった……!!」
オトワのかけ声に合わせ、ヴィータたち魔王パーティが一気に攻撃に転じる。
「形態変化、攻撃態勢!
「
「
チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
ズババババババババババババババババババババッッ!!!!
ゴガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!
魔界ダンジョンのエリアボスを跡形もなく消滅させた魔王たちの攻撃に、更にヴィータの拳が合わさる。
「天拳、第一之型……
呼吸を正し、踏み込んで腰を切る。
闘気の流れをコントロールして己が拳に集中させる事で、放たれるその衝撃は閃光にまで到達する。
ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!
かつての人間がその身に宿していたと言われる強大な力、闘気。
ヴィータは闘気の存在を理解していない。
だが、無意識にそれを使いこなしていた。
それは長い長い鍛錬の結果であり、攻撃のために洗練された動きの最終形が生み出した結果でもあった。
人間にはありえないであろう破壊の力が魔王の技と混ざり合い、更に衝撃は増幅された。
「どうだ……!?」
最早ダンジョンが完全な廃墟と化した中、衝撃による砂埃がゆっくりを薄れていく。
そこには先ほどまでとは全く別の姿に形を変えたウォーカーの姿があった。
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