085:エイリアンとオーパーツ⑦


「なんだアレ……空間が切り裂かれてる!?」


 突然現れた歪な裂け目はジワジワと大きくなり、円を作った。

 裂け目の奥からは真白な光が放たれていて、ポータルの先がどうなっているのかは分からない。


 それはまるで地下ダンジョンを照らす太陽のようにも見えた。


 そんな太陽の光を遮るようにポータルから何かが現れて影を作る。

 影はポータルからこぼれ落ちるように地面へと落ちた。


 ドチャリとやけに水気を含んだ音がした。


次元を渡りディメンション歩く者たちウォーカー……!」


 オトワがそう呼んだソレは巨大なドラゴンに似ていた。

 だがその身体は無数の触手が絡み合って作り上げられていて、常に崩れては再生を繰り返していた。

 黒ずんだ血と汚泥を混ぜ合わせたような濁った粘液がヌラヌラと不気味に光を反射している。


 その姿から感じるのは本能に直接訴えかけてくるような名状しがたい不快感で、まるでこの世の生き物とは思えなかった。


 モンスターともエイリアンとも、根本的な気配が違う。


「ダーリン、こいつはエリアボスなんてレベルじゃないぞ!」


「そうみたいだな……コイツはSランクどころじゃない。SS……いや、SSSランク以上の危険度……!!」


 ヴィータが感じる危険度もかつてないレベルだった。


 ウォーカーは一見するとグチャグチャとした触手の塊だが、その気配に隙は無く、そしてその行動が予測できない。

 未知の相手である。


「コイツは異次元から世界を渡って来たエイリアンの仲間よ!! 仲間って言うか、恐らくはエイリアンの上位存在!! 気をつけなさい、ウォーカーには知性があるわ!!」


「それに持ってるマキナの量が桁違い。それだけ強力だと言うこと」


 ウォーカーが現れたポータルがフッと光を失い、そして消えた。

 相対的にダンジョンが薄暗くなったように感じる。


「キュルッ? ……キュルル!! キュラララララララッッ!!!!」


 ウォーカーが威嚇するように雄叫びを上げる。

 巨体に似つかわしくないやけに甲高い声が不気味だった。


 オトワたちはすでに臨戦態勢を取っている。

 ヴィータも反射的に思考が戦闘モードに切り替わり、呼吸を整えていた。


「キュ」


 不意にウォーカーが動きを止めた。

 そう思った瞬間、槍のように形を変えた触手がヴィータ達に伸びていた。


 シュボッ!!


(なるほど、確かに……エノンの忠告通りだな!)


 ただ力まかせに攻撃してくるワケではない、明らかに知性を持つ動きだ。

 格闘技を使うヴィータにこそそれが良く分かった。


 普通の人間には視認すらできないレベルの超高速の攻撃を、さらに意識の隙を突くように緩急をつけて放って来たのだ。


 だが、ヴィータを含む魔王パーティのメンバーに避けられない速度ではなかった。


 ヌルヌルした粘液にどんな毒性があるか分かったものではない。

 まずは受けるより、回避して……。


「……!?」

 

 そう考えたヴィータの身体を見えない力が襲う。


 重力だ。

 マインの使っていた重力魔術のような技をウォーカーが使ってきたのだ。


 ヴィータは瞬時にそう判断するが、受けてしまってからではもう遅い。

 その重力は身動きできなくなるほどではなかったが、しかし回避行動がわずかに遅れる。


 妨害には充分な重さだった。


 ズガッ……ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!


 ヴィータは触手の直撃を受け、背後にあった遺跡にまで吹き飛ばされた。

 盛大な音を立てて遺跡が崩れ落ちる。


 オーパーツにも近い頑丈な素材で作られた遺跡の壁を破壊するほどの衝撃が、ヴィータの全身にダイレクトに伝わった。


「オトワ、人間!! 大丈夫!?」


 攻撃を回避できたのはエノンだけだった。

 エノンにかけられた重力魔術はマインが相殺していたのだ。


 オトワもヴィータと同じく重力魔術をくらって回避が遅れていた。


「ぐぬぬー!! ウォーカーめ、良くもダーリンの前で恥をかかせてくれたな! 許さん!」


 オトワはドッカーン! と勢いよく瓦礫を吹き飛ばして立ち上がった。


 物理体勢に極端に強いオトワは身体へのダメージなど全くなかった。

 無傷である。


 だたヴィータの前で醜態を晒してしまった事への怒りが芽生えただけだ。


「いやいや、オトワ。その人間の心配はしなくて良いわけ……? アンタと一緒に吹っ飛ばされてたんだけど?」


 そんなオトワにエノンが呆れ気味に問いかけるが、オトワはポカンとした表情で逆に呆れるような仕草で返した。


「ん? 何を言っているんだ、エノン。ダーリンがこのくらいの攻撃でやられるわけないだろ?」


 そしてオトワの言う通りだった。

 ヴィータも平然と瓦礫の中から立ち上がったのだ。


「うん。これくらいなら平気だ」


 鍛え上げられたヴィータの肉体にはこの程度の攻撃は通用しない。

 瓦礫の破片で服が少し破れた程度の事だった。


 その様子にエノンは再び呆れる事になる。

 エノンが知る限り、普通の人間なら今のダメージで100回死んでも足りないくらいのハズなのである。


「アンタ、本当に人間なのかしら……?」

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