080:エイリアンとオーパーツ②


「というか人間、アンタから全く魔力を感じないんだけど……でも、なんだか妙な力があるのよね。なんだか良く分からなかったけど、実際に戦闘を見たらすごさが分ったわ。とてつもない力ね。何なのそれ?」


 ヴィータは生まれつき魔力を持たない。

 魔法剣にも選ばれなかったから魔法剣の力も持たない。


 何もないハズの肉体は、しかし人間の力を遥かに超えた力を手に入れている。


「さぁ? 筋力かな。鍛えてるから」


 ヴィータが腕にグッと力を入れると、上腕二頭筋が収縮してコブを作る。


 オトワが「おぉ♡ さすがダーリン♡ 男らしい腕だな♡」などと感嘆の声を上げてコブを撫でたり、そのたくましい腕にぶら下がったりしたのでヴィータは少し照れるが、鍛え抜かれた肉体はブレる事がない。

 超高密度の筋肉は鋼鉄のように固いのである。

 腕から胸板や腹筋にまでオトワの手が伸びて来ても決してブレたりはしないのだ。


「いやいや、そんなレベルじゃないでしょ?」


 確かに上質な筋肉ではあるが、それは人間の身体の常識を逸脱するほどではなかった。

 見た目も筋肉モリモリのマッチョマンではなく、ヴィータはむしろ少し小柄に見えるほどである。


(この身体のどこにアレほどの力が秘められているのかしら……人間の男って不思議なのね)


 お姉さまと慕うマインの影響か、エノンも好奇心は強い方だった。


 ゴツゴツとした巨大な筋肉ではなく絞り上げられたスマートな筋肉は、ゆったりとした服装によって普段は隠れているから分かりにくい。

 かといってエノンにはオトワのように人間の男にベタベタと触りにいく勇気もなく、その身体をチラチラと盗み見る程度だった。

 エノンはピュアだった。

 人間の男への抗体がないのである。


「でも、筋トレくらいしかやってないしな。逆に言えば筋トレをやっていると言える」


「……人間の男ってみんなそうなの?」


「いや、そんなことないぞエノン。こんなに強くて素敵なのはダーリンだけだ♡ 他の男はゴブリンよる貧弱だったな!」


 オトワが辛辣な事をさらりと言ってのける。

 ヴィータはオトワの言う「他の男」とはクリムの事なのだろうと察しながら、しかし比較対象が魔界のゴブリンでは相手が悪いとクリムを哀れんだ。

 リーダークラスは人間界でならAランクにも匹敵する脅威だった。

 それと比較されてはほとんどの冒険者が貧弱になってしまうだろう。

 クリムが聞いたら顔を魔法剣の火よりも真っ赤にして激怒するに違いない。


「まぁ、力は強い方だとは思ってるけどな。鍛えてるし」


「だから何なのよ、その筋トレに対する厚い信頼は……」


 事実ヴィータは強かった。

 強かったからこそ落選者でありながら勇者の座にまで登り詰めたのだ。


 ヴィータの筋肉は見た目以上に密度が高く、それ故に代謝も高い。

 沢山のエネルギーを必要とするかわりに大きな力が出る。


 そんな筋肉の力強さ以上にヴィータの戦闘能力は突出して高かった。


 普通、腕力を鍛えたからと言って拳で地面を爆発させたりはできないし、脚力を鍛えたからと言って魔王の意識を置き去りにするほどの速度で移動できたりはしない。

 拳圧で風が巻き起こる事はあっても、圧縮されて空気の弾丸になったりはしない。


 だがヴィータは軽々しくそれをやってのける。

 そしてエノンはヴィータがまだ全力など出していないと理解していた。


 ヴィータには恐ろしいほどに余裕があるのだ。

 それは魔王をもってしても本気の実力が予測できないほどだった。


 その力の仕組みはヴィータ自身にも良く分かっていなかった。

 ただ漠然と「鍛えたら強くなった」という事実があるだけで、ヴィータはそれ以上は気にもしていなかった。


 そして気にする必要もないと考えている。

 仕組みを気にしなくともその強さが揺らぐことなどなかったのだから。


 ヴィータが求めたのは理屈ではなく「敵を倒せる」という結果だけである。

 自分が筋トレの結果で強くなるのなら、その筋トレを信じて続けるだけだ。


「大賢者は何でも知っている。それは『闘気』。人間だけが持つ魔力とは別の力……現代では衰退している力の一種」


 飛び出した目玉のセンサーをピコピコと揺らしながらマイン人形が教えてくれる。


「へぇ、そうなんだ?」


「そうなんだ、って……アンタ良く分からずにその力を使いこなしてるの?」


 そう言われても知らない物は分からない。


「わからなくても使えてるからな。トーキなんて初めて聞いたし」


「さすがダーリンだな♡」


「なにが?」


 強大な力を持ちながら、その本質に無関心な性格……オトワとヴィータはなんだか似ている。

 そう思いながら、エノンは「これ以上の追求は無駄ね」と諦めたのだった。

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