079:エイリアンとオーパーツ①
生命活動を完全に停止したゴブリンたちの身体が、やがて小さな光の粒子となって消えていく。
人間界でも同じ現象が起こる。
ダンジョンの中でも外でも例外なく、モンスターの肉体は跡形もなく消えてしまうのだ。
それは冒険者がモンスターを殺す行為に抵抗感を覚えない理由の一つでもあるとヴィータは考えていた。
討伐してしまえば血痕すら残らない。
モンスターが放っていた匂いすら消え、存在そのものがなかったことになるかのように。
だから生き物を相手にしている感覚が少ないのだ、と。
「消滅が始まったか。エノン、頼む」
「はい、マインお姉さま」
エノンは何もない空間から小さなカプセルを取り出すと、その光の粒子を回収し始めた。
当然のように伝説級の魔道具アイテムボックスの能力を使用しているエノンだが、ヴィータはもう驚かなかった。
「何してるんだ?」
「これでマキナを集めてるのよ。エイリアンが消滅する時に放出されるエネルギーの事ね。オーパーツを動かす動力になるの」
「へぇ、なるほどな」
「大賢者は何でも知っている。オーパーツとエイリアンには何らかの関連がある。動力、そして誕生の秘密が共通しているハズだ」
「エイリアンについては調査中なんだけどな! ただ魔族やモンスターに関係なく生命体を襲う習性がある。ダーリンのいた人間界でも同じだったろ?」
「そうだな。確かに何でも襲うイメージだ」
ダンジョンからあふれたモンスターは人間だけでなく家畜も襲う。
だからこそ人間界を守るためには冒険者が必要不可欠な存在だった。
一方で魔王と呼ばれる存在や、知性を持ったモンスターもいた。
強い冒険者にだけ戦いを挑む個体や、そもそも戦いを避けるような個体の報告が有名だった。
極稀ではあるが、エイリアンではない本物のモンスターが人間界に迷い込んでいたのだろう。
そう考えると、少しだけオトワたちに申し訳ないような気持ちになるが……幸いにもヴィータが戦ってきた相手はエイリアンばかりだ。
ヴィータの記憶ではこれまで倒してきたモンスターの死体が消えなかったことはなかった。
それに
討伐した龍の爪や牙を加工して作られたという武器だが、人間界の常識ではモンスターの死体など残らないため、ヴィータもそれは妄想の産物でしかないと思っていた。
だが、こうしてエイリアンの事を知ると理解できる。
エイリアンではない本物のモンスターから武器を作る事は可能なのだろう。
討伐の証として持ち帰ったオトワの分身体を倒した時のコアもそうだし、かつての魔王の討伐の証もそうだったに違いない。
あまり気にしていなかったが、消滅しないモンスターには明確な理由があったのである。
「大賢者は何でも知っている。人間界に出現するエイリアンは、いわば斥候のようなモノ。偵察用の弱い個体に過ぎない」
「だから人間界のモンス……エイリアンたちは弱かったのか」
魔界では通常のゴブリンが、人間界ではありえないほどに強いのである。
並みの冒険者パーティなら一瞬で全滅していてもおかしくはなかった。
もちろんヴィータの相手ではないのだが。
「そうだ! これがエイリアン……人間がモンスターと呼んでいた存在の本当の強さだ。ま、ダーリンには関係なかったかも知れないがな♡」
確かにヴィータはエイリアンたちを問題なく倒せた。
だが、ここはまだダンジョンに入ったばかりの地点だ。
ダンジョンは奥に行くほどに敵が強力になる傾向がある。
そして最奥に潜むのはより強大なボスである。
それを考えると魔王と呼ばれるレベルのオトワたちがパーティを組む理由も理解できる気がした。
「それにしてもアンタって本当にSSSランクだったのね。正直、疑ってた。悪かったわね」
光の粒子を回収しながら、エノンはバツが悪そうにヴィータに謝った。
「何を言ってる、エノン! ちゃんとギルドで認定されてただろう!?」
「いや、どうせオトワが適当に審査したんだと思って……」
事実、オトワの審査はかなり適当だったと思いつつ、それは口にしない事にしたヴィータだった。
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