077:魔界のダンジョン③
「わかったわ。でも、気をつけなさいよ?」
ヴィータが最前線に立つと、エノンは骨の刃を消して臨戦態勢を解いた。
「ありがとう」
「べ、別にアンタの心配してるわけじゃないんだからね!?」
背後からツンデレのオーラを感じつつも、ヴィータは目の前の遺跡に意識を集中させた。
「ゲギャ」
少しの静寂の後、潰れたカエルのような奇声と共に緑色の亜人が姿を現した。
尖った耳や鼻に、ザラついた緑の皮膚。
体毛はなく、手足は長い。
遺跡の中から現れたのは1体のゴブリンだ。
人間界でも良く見た姿である。
「ふむ……」
百戦錬磨のヴィータは敵の姿を見るだけでおおよその戦力を把握できる。
ゴブリンは通常ならDランク程度の弱小モンスターだが、目の前の個体はBランクはありそうだった。
個体としては群を抜いて強い。
リーダーやロードと呼ばれる群れの頭だろう。
ヴィータはそう判断する。
「ゲギャ、ゲギャギャ」
だが、それが大量にいた。
遺跡の中から次々にゴブリンが姿を現したのだ。
どれもが最初の個体と同じくらいに強い。
つまり、リーダー個体などではなかったのだ。
普通はリーダー以上のゴブリンはそれを誇示するかのように武具を身に纏うが、目の前のゴブリンたちは何も装備していない。
装備もなくやけに軽装だったことに違和感を覚えていたが、リーダーでないのなら納得できた。
「どうだ、ダーリン?」
「強いな。人間界とはまるで別物だ」
この数のBランクモンスターの相手となれば、対処できるのは勇者パーティくらいだろう。
いや、もしかしたら勇者ですらも……
「だろう? では、ダーリンは我が街の魔族を見てどう感じた?」
「ん? どうって、あんまり人間と変わらないなって……」
街で見た魔族の表情はもっと、人に近い物だった。
それこそヴィータ達が知るモンスターとは別物だったのだ。
街にはゴブリンのような魔族もいた。
温和そうに談笑しながら子供を連れて市場で果実を買っていたのをギルドからの帰り道に見かけた。
チュチュもそうだ。
魔王であるオトワへの憧れ、ライバルと認めたヴィータへの嫉妬……ヴィータにとっては通り魔みたいな少女だったが、だがその内側には間違いなく人間と同じ心があったハズだ。
「……うん、別物だな」
目の前のモンスターは、そうではない。
人間界のモンスターも同じで、まるで人間性はなく、ただただ狂暴な災害のような存在だ。
ギラギラと目には狂気だけを宿している。
そこには知性も感情も何もなにように見えた。
「そうだ。コイツらは人間が勝手にモンスターと呼んでいるだけの存在だ。モンスターでも魔族でもなんでもない、我らの姿を模倣した全く別の生き物だ。別次元からやってくる侵略者……我らはエイリアンと呼んでいる」
人間界の常識が覆る発言だが、今のヴィータにはすんなりと受け入れられた。
別次元なんて話、これまでなら「妄想だろう」と笑い飛ばしていたかも知れないがオトワの口から聴くと不思議な説得力があった。
既にヴィータはワープポータルという都市伝説じみた魔道具……オーパーツを見ているのだから。
「別次元からきたエイリアンか。初めて聞く話だけど……安心した」
「ふふ、我の気持ちを心配してくれていたんだろ? ありがとうな、ダーリン。でも、心配は無用だ。そもそもヤツらはモンスターではないのだからな!! 全力で倒して良いぞ!!」
オトワがゴブリンたちに向かってビシッと指をさす。
やれやれ、オトワにはかなわないな。
なんてヴィータは考える。
ヴィータの懸念はオトワには見透かされてしまっていたらしい。
それも杞憂に終わった。
「ゲギャアアアアアアアアアアアアア!!」
雄叫びと共にゴブリンたちが飛び掛かって来たのは、ちょうどそんなタイミングだった。
「おう」
悩みが晴れたヴィータはすがすがしい気持ちでオトワに返事を返し、一歩、踏み出した。
「戦闘開始だ」
ヴィータの拳が盛大にゴブリンを吹き飛ばす。
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