076:魔界のダンジョン②


 ヴィータたち魔王パーティはメイドのエノンを先頭にダンジョンを進んで行く。


 狭い道が迷路のように続く人間界のダンジョンは迷宮などとも呼ばれる事があったが、魔界のダンジョンは閉塞感のない空間だった。

 地下にいる事を忘れそうになるくらいだ。


 廃墟を散策するように、遺跡のような建造物を調査しながら進む。


「ここはハズレのようだ。次はあの建物を見てみよう」


 案内役はエノンの肩に乗ったマイン人形だ。


 顔色がありえないくらいに青白い事を除けば普通の人間と見分けがつかないような美少女のマインに対して、マイン人形はワザとらしいほどゾンビらしさが強調されている。


 頭にはなぜかネジが刺さっていて、片目は目玉が飛び出している。

 ところどころ縫い合わせた跡もあったりした。


 飛び出した目玉は何かのセンサーになっているらしく、常に不気味に揺れていた。

 ネジも何かに反応するようにたまに回転したりしている。


 遺跡の入り口を探して中の様子を見ると、また次の遺跡へと進む。


 ヴィータはルンルンと上機嫌なオトワに腕を組まれたまま、エノンの後を歩いてついていく。


「……それで、何を探しているんだ?」


 気になって聞いてみると、エノンが驚いた声を上げた。


「え……!? 人間、そんな事も知らずに来たの……? もう、オトワったら」


「おぉ、そうだった! 我らの目的を説明するのを忘れていた!」


 秘密にされているのかと思ったが、ただ忘れられているだけだった。


「すまないな、ダーリン。一緒にダンジョン探検するのが楽しみで忘れていたぞ」


「別に困ってないから大丈夫だよ。それで目的って?」


「我らが行うダンジョン攻略の主な目的は2つだ。1つは敵を殲滅して魔界の平和を守ること。そしてもう1つはオーパーツの回収だ」


「オーパーツ?」


「古代魔道具と呼ばれるレアなアイテムだな。まだまだ現代では解明できていない便利なアイテムなんかが魔界のダンジョンにはたくさんあるんだ。コレもそうだぞ!」


 オトワはワープポータルの子機を取り出して見せた。


「とは言え、オーパーツの持つ特殊なエネルギーは魔力とは別物で我らには感知できない……だからこれは主にマインの役割だな」


「そういうこと。ピースピース」


 マイン人形が目玉を揺らしながらピースをして見せる。

 人形もやはり無表情だった。


「我らの主な役割は戦闘だ。敵の殲滅と、調査中はマインの人形を守る必要もある。まぁこの人形だけでも人間の世界を滅ぼすくらいの戦闘力はあるとおもうけどな!」


 ケラケラと笑うオトワだが、魔王が言うと冗談に聞こえなかった。


「敵って……モンスターなのか?」


 ヴィータは以前から気になっていた質問をぶつけてみた。


 オトワは魔族が平和に暮らせる世界を望んでいる。

 だがヴィータの認識では魔族はモンスターの一部だ。


 モンスターと戦う事は、オトワたちにとっては同胞と戦う事になっていまうのではないかと懸念していた。


 オトワは少しだけ「うーん」と考える仕草をする。


「ダーリンから見ればそうだな。だが、我らにとっては違う」


 オトワの言葉の真意が良く分からず、今度はヴィータは「うーん?」と唸る事になった。


 そうして2人で顔を見合わせていると、先頭を歩いていたエノンが遺跡の前でピタリと足を止めた。


「敵よ。注意しなさい」


 警告と同時、エノンの周囲には数多の骨が生成されていた。

 その骨はナイフのように先端が尖っていて、武器なのだと分かる。


 そしてヴィータにはその一本一本が勇者たちの魔法剣を軽く凌駕する危険物であると認識できた。


 ズラリと空中に、まるで翼のように骨の刃が並べたエノンのその姿は、確かに魔王クラスのモンスターであるとヴィータに再認識させた。


「おぉ、ちょうど良い! 見ればわかりやすいな」


 一方で警戒とは無縁の様子のオトワはポンと手を合わせ、目を輝かせた。


「エノン、ここは我とダーリンに任せてくれ!」


「別に良いけど、大丈夫なの?」


 エノンの仮面についた目がキュッと動き、ヴィータをチラ見した。


 オトワが認めた人間として、エノンはすでにヴィータを認めている。

 だが、それはあくまでも人間という枠の中での話だ。


「魔界のダンジョンは人間界のように甘くないわよ?」


「大丈夫だ! ついでにみんなにもダーリンのスゴさを見てもらおう! な、ダーリン♡」


 オトワにそう言われて断れるヴィータではない。

 ヴィータはオトワが言うならどんなに高いツボや絵画でも即購入するだろう。


「あぁ、やってみるよ」


 ヴィータはそう言って、エノンの前まで歩み出た。

 オトワが少しだけ下がってそれに並ぶ。


 ヴィータは戦う事に関しては自信があった。

 落選者として蔑まれながらも拳一つで英雄にまで成り上がったのだ。


 そして何より、オトワの前で恥ずかしい姿は見せられない。

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