075:魔界のダンジョン①
「ここが魔界のダンジョンか」
ワープポータルを経由して、ヴィータたちはダンジョンへとやってきた。
辺りには苔のむした建造物の残骸が地面から生えるように点在している。
実際には生えているのではなく、地面に埋まっているのだろう。
それは崩壊した古い遺跡のような場所だった。
「独特の空気だろ? でも我はこの感じ、嫌いではないんだ」
ダンジョン内の空気はヒンヤリと冷たいが、不快な感じはしなかった。
魔力に満ちているのに澄んでいて、まるで浄化された風のようだ。
ジットリとまとわりつくような人間界のダンジョンの気配とはまるで違う。
「俺も、嫌な感じはしないよ」
ヴィータが素直にそう口にすると、オトワは嬉しそうに笑った。
「ふふ、そうか! そうか!!」
遺跡に思い出があるわけでもなく、この場所に来るのなんて初めてのハズなのに、ヴィータはなんだか懐かしいような不思議な気持になっていた。
ここは魔王城の地下にあるダンジョンらしい。
「大賢者は何でも知っている。ダンジョンは、この城の地下にある」
ワープポータルを起動する直前、マインはそう言っていつものように無気力な表情のまま、地下室の床を指さしたのだ。
どれほどの深さかは分からないが、地下までワープしてきたのだろう。
ヴィータは「大賢者が言うのだから間違いない」とマインを信じ、ここが地下ダンジョンなのだと認識する。
人間界のダンジョンにもいろいろな形態があったが、魔界のダンジョンは比べ物にならない程に広かった。
天井はどこまでも高く、まるで星の満ちる夜空のようにキラキラと輝いている。
その明かりに照らされて、地下ダンジョンにも関わらず薄暗いながらも周囲の景色が見て取れるくらいには明るかった。
そこに禍々しさはなく、ヴィータはそれを神秘的にすら感じていた。
「マイン、我らは無事に到着したぞ。聞こえるか?」
オトワがしゃがみ込み、小さな人形に声をかける。
実際には、人形越しのマインにだ。
「聞こえてる。こちらも問題なし」
人形は手を振って答えた。
ポータルの管理のためにマインはこの部屋に残る事になっていた。
代わりにリトルマインというこの小さな人形が同行している。
リトルマインは簡単な戦闘や補助までこなす万能ツールらしいが、主な役割は通信機だ。
オトワはドレスのようないつもの服装だが、エノンは少し様子が違った。
服装はいつものメイド服なのだが、顔には謎の仮面を装備している。
仮面には赤く光る四つの目が付いていた。
なんだろう? とヴィータが見ていると、視線に気づいたエノンが答える。
「あぁ、コレ? 目の代わりよ」
エノンはスケルトンなので目球がない。
眼窩は暗く窪んでいるだけだ。
普段のエノンは視力のかわりに魔力で物体の姿形を把握していた。
だが、ダンジョンでは魔道具を使って魔力以外の視界を補っている。
「ダンジョンには魔力の気配に敏感なヤツとか、魔力の形を誤魔化すようなヤツもいるから。念のためだけどね。疲れるから普段は使わないんだけど」
とは言えその視界は完璧ではなく、人の顔などはボヤけてしまう。
大まかな輪郭が把握できる程度だ。
エノンはその情報を魔力による感知と統合して情報を処理しているのである。
「へぇ、そうなのか。……武器とか持たないのか?」
歴代の魔王たちは誰も武器のようなものは持っていなかった。
城の中では包丁や箒を常に手にしていたエノンも今は手ぶらである。
誰もが魔法剣を手にしていた人類のパーティで戦ってきたヴィータには、手ぶらで軽装のままダンジョンに挑むオトワたちの姿が新鮮で、むしろ違和感を感じるほどだった。
そんな中で常に素手で戦い続けてきたヴィータが言えたセリフではないのだが……。
「全ての魔族が素手で戦うわけじゃないが、我らは肉体そのものが武器だからな!」
オトワが体の一部を発光色に変化させて明かりにしていた。
天井から明かりが落ちてくるとは言え、やはり地下ダンジョンは薄暗い。
そんな景色をオトワの光が照らす。
スライム種が体色を変化させることができる事は人間界でも知られていたが、発光できるなんて話は聞いたことがない。
そしてオトワはそれを当然のように浮遊させていた。
「大賢者は何でも知っている。私たちの体より頑丈で柔軟さがあって、そして本人の意思で自由に変化させることができる物質なんて物は存在しない」
マイン人形はエノンの肩に乗っているだけで何もしていないが、大賢者と称えられたマインにはあらゆる魔術が使用できるのだ。
武器など必要ないというのにも納得である。
「攻撃手段には困らないし……アタシたちが本気で戦闘すると敵より先に武器の方が壊れそうよね」
エノンもオトワと似たような事をやってのけている。
エノンには骨を自在に生成する能力があるらしいく、生成した小さな杖のような形状の骨の先端を光らせてオトワと同じように浮遊させていた。
なるほど、とヴィータは頷いた。
確かに彼女たちには武器なんて必要なさそうである。
「そう考えると、やはりダーリンは我らと同じ魔王クラスだな! もちろんダーリンの方が強いんだけどな♡」
と、なぜかオトワは嬉しそうに笑っていた。
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