074:勇者は苦戦する⑩ ~追放サイド~


「きゃあっ!? な、なんでしょう!?」


 ズズ、ン…………。


 勇者パーティ最大の合体技による衝撃は、撤退を進めていたキキーたちの元まで響いていた。

 地響きと共に、パラパラと天井から砂がこぼれてくる。


 すっかりキキーに懐いた木の魔法剣の使い手ウェドは、さり気なく抱き着きながら涙目になってキキーの様子を伺った。


(この魔力は……アレを使ったのか!?)


 探知スキルが捉えた魔力の反応からキキーはすぐにそれを察したが、表情は厳しいままだ。


 キキーたちは順調に退路を進んでいた。

 クリムが八つ当たり気味にモンスターを掃討していたおかげで戦闘もなくスムーズに出口へ向かえている。


「大丈夫。あの敵の気配は遠い。出口までもう少しだから、気を抜かずに!」


「は、はい!」


 確かに勇者パーティの合体スキルは強力だ。

 ダンジョン全体を揺るがせるほどの威力でスキルが出せるのは全人類の中でも勇者パーティくらいのモノだろう。

 もちろんヴィータを除けば、だ。


(だけど、今回は相手が悪すぎる……!)


 探知スキルを通じてキキーが感じとった敵の魔力は、魔王にも匹敵するものだった。

 だったら、その答えは分かり切っている。


 なぜならそのスキルは、魔王クイーンスライムにも通用なんてしなかったのだから。


(バカな事を……!!)


 そしてあの技には強大な威力と引き換えに、避けられないリスクがある。


 それを考えれば、勇者パーティの末路は一つしかない……。






 ◇ □ ◇ □ ◇






「よしっ!! やったか!?」


 魔法剣から生み出される水の魔力と風の魔力は、どちらも高密度に圧縮される事で特殊な性質が追加される。

 それらと同じかそれ以上の密度を持つ火の魔力と特殊な反応を起こすようになるのだ。


 生み出される反応は、圧倒的な威力の大爆発だ。

 全ての魔力が純粋な破壊の力に変換された大爆発である。


 その時、火の魔法剣はまさに超効果力の爆弾を爆発させる起爆剤になるのだ。


 それが勇者パーティの切り札である【三連爆法】エクストロイカ

 勇者パーティが誇る最強の合体必殺技である。


 だが高密度の魔力を作り出すのには魔法剣の力を大きく消費してしまう。

 一度【三連爆法】を使用すれば3人ともが疲弊してしまうため、パーティの戦闘能力は一気に低下する事になる。

 まさにパーティにとっての切り札と言える技なのだ。


 だからこそ、このスキルを使用するのは絶対に倒せると確信を得た時か、あるいはどうしようもないくらいに追い詰められた時だけである。


 連発なんて出来ないため、普段ならキキーがスキルで動きを止めてから放つ。

 その後の撤退もキキーの守護がなければ危険なほどになる。


 だが、この狭いダンジョンなら拘束などなくても問題はない。

 砂中に逃げても壁事ふきとばすだけだ。


 ここまでの道中にモンスターはすでに殲滅しているし、今回はエイサとミクールという予備の戦力もいる。


 だが、これで全て終わり。

 ボスを討伐してダンジョンクリア……そのハズだった。


 砂煙が収まると、そこにはピクリとも動かなくなったサンドワームの姿があった。

 外皮がボロボロと剥げ落ちていく。


 あのスキルをまともにくらって姿を残しているだけでも立派なモノだ、とクリムは上から目線で評価した。


 ボロ、ボロ…………。


 ん?


 と、そこでやっとクリムは違和感に気が付いた。

 剥がれ落ちた外皮の内側に気が付いたのだ。


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああおおおおお!?!?」」」


 ボロボロと崩れ落ちていたのは外皮だけだった。

 サンドワームは生きていたのである。


 攻撃によるダメージはあったが、それは外皮を貫くことは出来なかった。

 サンドワームは充分な捕食によって脱皮を行っただけだった。


 脱皮したことで体が更に一回り大きくなったサンドワームは元気もいっぱいで、先ほどまでの大人しさが嘘のように大暴れを始める。


 そこからはドッタン、バッタンの大騒ぎだ。

 阿鼻叫喚の地獄絵図とも呼べるだろう。


 魔力を使い果たした勇者たちはただ逃げ惑うしかなかった。

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