073:勇者は苦戦する⑨ ~追放サイド~


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 伝説上では巨塔のような巨大な姿だと言われていたが、目の前の個体の大きさはそこまでではない。

 人間よりは大きいが、塔を飲み込むほどではないのだ。

 そんなサイズのモンスターがいれば、このダンジョンには入りきらないだろう。


 だが魔法剣の攻撃を物ともしない強さから、クリムたちはそれが伝説の砂龍に違いないと確信していた。

 語り継がれていく中で話に尾ひれがつき、巨大化したのだろう。


 炎の中で平然と頭をもたげるその姿は雄大で神々しくすらあった。

 砂龍の地下墓は本当に砂龍の地下墓だったのだ。


「クリム様の攻撃が効いてない~!?」


「まさか火に強い耐性がっ!?!?」


 と唯一の希望であったクリムの攻撃を凌駕する強さのサンドワームに焦る仲間たちだが、一方のクリムは最高にハイになっていた。


「ハッハッハ~!! こいつが伝説のサンドワームか!! 勇者パーティの相手に相応しいボスじゃねぇか!!」


 クリムは秘かに求めていた。

 かつてヴィータが倒した魔王のように、倒せば誰もがその輝かしい功績を認める事になる相手を。


 クリムはすでに魔王討伐の称号を手にしているが、その中身が空っぽな事を理解していた。

 本当に魔王を倒したはヴィータなのだと誰もが分かっているからだ。


 ただヴィータが落選者だから、魔法剣至上主義のためにクリムを祭り上げているに過ぎない。


 クリムの輝かしい実績には常にヴィータの影があった。

 まるで虎の威を借る狐のような、そんな惨めな思いがクリムの心の奥底に燻っていたのだ。


 だが、クリムは自分がヴィータに劣っているなどとは絶対に認めていなかった。

 魔王クイーンスライムとは相性が悪かっただけに過ぎない。


 そうではない、自分の実力を示す事ができて、それでいて話題性もある強敵。


 まさに今、目の前に現れたサンドワームこそがクリムの望む相手だった。


「エイサ、ミクール! 少しで良い! 時間を稼げ!!」


「は、はい!!」


「わ、わかりました!!」


 2人は冒険者の中でも2トップの実力者だ。

 伝説の砂龍を前にした恐怖を振り払い、クリムの指示に従って2人は最前線へと駆けだした。


【風爪乱舞】ウインドクロウ!!」


【火焔楼弩】フレイムロード!!」


 それぞれの魔法剣が持つ得意技で少しでも気を引こうとするが、サンドワームの外皮にはやはり傷一つ入らない。


 サンドワームは首を振って2人を見るが、何故か攻撃はしてこない。


 それでも攻撃を続ける。

 注意を引けるなら、それで良いのだ。


「オリバ! アイリ! やるぞ!! 今こそ俺たちが本当の伝説になる時だ!!!!」


 パーティ結成の時のような、勇者らしく英気に満ちたクリムの表情。

 オリバは久しぶりに見る一人の冒険者としてのクリムの姿に、自身も力強く頷いた。


「はい! クリム様! やりましょう! 私たちの力で……!」


「うん。私たちの最強合体技なら……!」


 そしてクリム、オリバ、アイリが魔法剣の重ねる。

 それぞれの魔法剣に、持てる魔力を全て込めた。


 火の赤と、水の青と、風の緑。

 光は重なりあい、混じりあって白く変わっていく。


「よし、2人とも離れろッッ!! 行くぞ……ッッ!!」


 クリムの合図とともにエイサとミクールはサンドワームから逃げるように離れた。


 クリムたちから見たことのないほどの魔力の高まりを感じ、巻き込まれたら命はないと直感した。


「「「【三連爆法】エクストロイカッッッッ!!!!」」」



 ズォッ……ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!



 真白な閃光と共に、3人の魔法剣から力が解き放たれた。

 ただの爆風とは違う、純粋な破壊の力がダンジョンを覆いつくす。

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