069:勇者は苦戦する⑤ ~追放サイド~
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
砂の中から飛び出した何かがクリムに襲い掛かる。
キキーの声でそれに気づいて回避しようと思っても、振動で柔らかくなった砂に足を取られてしまいクリムは思うように動けない。
「うおおぉおぉぉおおおおおおおおッッッッッッ!?!?」
クリムの手には今、目の前の「ボススケルトンに違いない」とカンチガイした誰かの遺骨にぶっ放そうとして刃に溜めていた魔法剣の力がある。
とっさにそれを、その何かに向けようとした。
だが、間に合わない。
クリムは魔法剣を出現させて前方へ向けてはいたし、力も溜めていた。
だが実際にはドヤ顔を決めて自分の活躍を妄想するという臨戦態勢とは程遠い状態だった。
地中からの奇襲に対し、完全に隙を突かれた形になってしまっている。
剣を振るより、何かのの牙がクリムの体を食いちぎる方が早い。
「クリムさまっ!?」
近くにいたエイサもクリムと同じで体勢を崩していた。
援護しようと剣を構えているが、今更なにかしようとしても全く間に合わないと分かる。
「ヒィッ……!?」
ヤバイッッ!!
と、クリムの口から思わず情けない声がでる。
「
諦めて目を閉じかけた時、壁から伸びたツタがクリムの体を引っ張った。
グイン!!
ズギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!
何かがクリムの体の横をかすめ、その先にあったダンジョンの壁へと突き刺さった。
その長い体をドリルのように回転させると、蛇のようにも見える何かは止まることなく壁の中へと潜り込んでいく。
荒い外皮が回転によって砂を巻き上げ、ダンジョン内が砂煙に覆われた。
「キキー!? たすかっ……あべらっ!?」
ズザー!!
クリムを救ったのはキキーのスキルだ。
壁に這わせていた光球花の茎から自在に操る事ができるツタを伸ばし、クリムをポイっと投げ捨てるように移動させた。
クリムはゴロゴロと情けなく転がるハメになったが、キキーは丁寧に着地の面倒まで見ている余裕がなかった。
「みんな気をつけて!! アレは……」
キキーはダンジョン内を照らすために光球花の根を張り巡らせていた。
だからこそ誰よりも早く地中から迫る振動に気づけたのだ。
そして地中を掘り進むその体の巨大さ、力強さ、高密度の魔力を感知していた。
キキーは一目で理解した。
そしてその先に続く言葉を飲み込んだ。
アレは
今までならヴィータが相手をしていたレベルのモンスター。
すなわちAランク以上のモンスターである。
つまりは強敵だ。
勇者パーティ
強敵はヴィータが迅速に仕留める。
そうでなければ主にクリムが手柄を立てる。
それが勇者パーティ内に出来上がっていたある種の暗黙の了解であり、戦闘パターンでもあった。
ヴィータがいない今、パーティにとっては決して遭遇したくはなかったレベルの強敵。
下手に刺激せず、可能なら戦闘を回避して逃げるべきだ。
キキーは瞬時にそう判断した。
焦るキキーの様子から、オトワとオリバもそれを感じ取った。
もちろん、クリムもである。
だが、クリムはそれを素直に受け入れたりはしなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
自らを奮い立たせる雄叫びと共に、クリムは魔法剣を振り上げた。
これからは勇者パーティが人類を守り、支配するのだ。
クリムが全てを手に入れるために、クリムにとって「ヴィータ級」はもう存在してはいけない存在になったのだ。
(邪魔なんだよヴィータああああああああああああああ!!!! 消えろ消えろ消えろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)
さっきのは、ちょっと不意を突かれただけの事だ。
Bランクダンジョンのボス程度に勇者が負けるワケがない。
敵が完全に壁の中へもぐりこむ前に、今この瞬間に仕留める……!!
「クリム!? 待っ……」
ヴィータなんていなくても良い。
俺様さえいれば良いと証明してやる。
「
キキーが止める間もなく、クリムの魔法剣から全力全快の必殺技が放たれた。
そもそも完全に頭に血が上ったクリムに「待って」などと、そんな言葉が届くことはなかっただろう。
ズッ……ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
爆音と共に燃え上がる朱色の炎がダンジョンの壁を破壊した。
爆炎に目を輝かせながらクリムが叫ぶ。
「やったか!?」
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