068:勇者は苦戦する④ ~追放サイド~
「おい、お前たち! 気を引き締めろ! ここはダンジョンだ! 遠足じゃないんだぞ!?」
イライラが限界を超えたクリムがそう声を荒げてしまってから、ダンジョンには気まずい沈黙が流れた。
「す、すみません……」
それからダンジョンの奥地へ辿り着くまで、しばらくは居心地の悪い静寂がパーティを包むことになった。
何度かの戦闘があったが、クリムが八つ当たり気味に攻撃するだけの一方的な戦いでしかなく、サブパーティのメンバーには何もやるべきことはなかった。
(なんだよ、この感じは……! これじゃあ俺が空気を読めない悪者みたいじゃねぇか……! クソッタレがッ!!)
なんてイライラの連鎖が止まらないクリムに、エイサは何と声をかけたらいいのか分からずに涙目になってオロオロするが、クリムはその様子を分かっていながら何も声をかけなかった。
「クリム様、なんかピリピリしてない?」
「そうみたい。どうしたんだろ」
「さぁ、ね…………」
サブパーティと違って勇者パーティのメンバーたちは平然としていたが、それもクリムのイライラが止まらない要因の一つだった。
キキーはその理由を察していたが、口にはしない。
地下へ地下へと進み、やがてクリムたちは行き止まりへとたどり着いた。
想定よりも深いダンジョンだったが、戦闘にかかる時間が短かったこともあって攻略は予定よりも早く進んでいる。
「ここが最下層でしょうか……?」
エイサが疑うように言う。
地下へ進むごとにダンジョン内の気温は下がっていき、最下層では
ここまでにボスらしき個体とは遭遇していない。
ボスはダンジョンの魔力の影響を一番強く受ける事ができるため、外皮の色が変わったり、体が一回り大きくなったりする。
たまにザコモンスターとは全く別の種類のモンスターがボスになっている事もあるが、その場合でも一目で見分けがつくことは変わらない。
遭遇すれば分かる。
ましてや百戦錬磨の勇者パーティならば尚更だ。
「フン。俺がボスまでまとめて倒しちまったのかもな」
スケルトンというモンスターのベースとなるのはモンスターの死骸だ。
魔界の魔力には生物たちの怨念が宿っていると言われており、モンスターの死骸に定着した怨念がその体を動かすとされる。
ダンジョンにはモンスターが集まるため、魔力も集まる事になり、その怨念も強くなる。
魔力は増幅され、怨念は密度を増す。
だが死骸が成長する事はない。
ボスの姿を見落としても不思議ではないと、クリムは楽観的にそう考えた。
「ん?」
ダンジョンの最奥に、モンスターとは違う骨があった。
「なんだ……戦死者か?」
人間の骨である。
それぞれのパーツは2セットになっていて、頭蓋骨は2つ、手足はそれぞれ4つある。
2人分の死骸のようだ。
その遺骨には風化も見られず、そこまで古くないように見える。
このダンジョンは長い間、放置されて来た。
人間界のダンジョンならまだしも、魔界のダンジョンに民間人が紛れ込むなんて事はありえない。
どんなにバカでも防壁を超えて魔界に行こうとするバカはいないし、そもそも巨大な防壁には警備の騎士も常駐しているため抜けようと思って抜けられる物ではない。
新しい死体ではないハズなのに、やけに綺麗だ。
そこから導き出される答えは1つしかない……。
そう考えてクリムはニヤリと笑い、魔法剣を構えた。
「なるほど、お前がボスってワケか」
「えっ!? クリム様、でも人間の骨がスケルトンにはならないハズでは……」
「覚えておけ、エイサ! 魔界のダンジョンにそんな常識は通用しないッ!!」
向けられた刃の先で、人骨がカタカタと震え出した。
「えぇっ!?」
やはりな!!
人間の遺骨に擬態するとは小賢しい!!
さぁ、かかって来い!
俺の見せ場を作りやがれ!!
まずはどうしてくれようか……。
ド派手に吹っ飛ばすのも良いが、わざと初手では仕留めずサブパーティのヤツらをビビらせて見るか?
これから始まる自分の活躍を想像し、クリムは胸を高鳴らせる。
それに呼応するように、骨たちの振動も増して行く。
カタカタ……
カタタタタタ……
カカカカカカカカッッ……
まるでダンジョン全体が揺れているかのように感じられ……そこでやっとクリムは異変に気が付いた。
揺れているのは骨じゃない。
ダンジョンそのものなのである。
ズズズズズン……
(ん? あれ?)
「クリム、下だ!!」
キキーが叫んだ。
強烈な振動にクリムの体が傾く。
その足元で、地面の砂が揺れ、まるで沼地のように足が取られた。
「うおぉ!?」
「きゃぁ!?」
そしてズン! と、一段と大きな揺れと共に地中から何かが飛び出した。
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