065:勇者は苦戦する① ~追放サイド~
クリムたちが耐熱装備の馬車から降りると、荒野を灼熱たらしめる日差しがダイレクトに冒険者たちに牙を向いた。
一歩踏み出すたびに汗が滲む。
ジャリ、と鳴る砂の間から熱気が舞い上がり、まるで焼けた鉄板の上にいるようだ。
「よし、行くぞ」
目的のダンジョンに到着すると、クリムたちは当初の予定通りに攻略作戦を展開する。
作戦と言っても、勇者パーティが普段通りに進行し、それを後ろからサブパーティがサポートするというのが基本形態である。
勇者パーティにとって今回の相手は格下であり、綿密な作戦など必要がないと考えているからだ。
「エイサ、君にはAグループのリーダーを任せる。頼んだぞ」
「は、はい! クリム様の期待に添えるように、私がんばります!!」
クリムはサブパーティのリーダーに任命したエイサの魔法剣の特徴から、サブパーティを
エイサはパーティの名前まで付けてもらい、自分たちも勇者の仲間に認められたのだと……そのことに涙を浮かべて喜んだが、クリムは『暴風の刃』を仲間などとは思っていなかった。
あくまでもサブパーティは勇者パーティのための武器の一つでしかないのだ。
勇者のために戦う剣となるべく、彼女たちを刃と呼ぶのである。
一方でクリムが個人的な意見として、エイサを含む数名の女冒険者には好意を持っているのも事実だった。
それも、あくまでも愛玩道具にすぎないのだが。
(何も知らない初心な反応……かわいいじゃねぇか。間違いなく俺様に惚れている……この仕事が終わったら後でじっくり可愛がってやろう)
などとすでにクリムはダンジョンから帰った後のお楽しみに思いを馳せつつ、ダンジョンへと踏み入る。
「ダンジョンへ突入だ。だが君たちの前には俺たちがいる。ビビることはないぜ!」
巨大モグラの巣穴のように不自然に盛り上がった砂の真ん中。
荒野に開いた大きな穴が、砂龍の地下墓へと続く入口である。
穴は斜めに掘られているらしく、ハシゴがなくとも出入りが可能だ。
穴の中に入ると、荒野の日差しが遮られて、むしろ寒気を覚えるほどだった。
地獄のような外の熱気が嘘のようで、心地よさすら感じる。
予定通りに先陣を切るのは勇者パーティ
その後ろにサブパーティ『暴風の刃』が、リーダーであるエイサを先頭にして続いていく。
「みんな、行くわよ! 勇者様たちの足を引っ張らないように!」
サブパーティの中での役割分担は事前に行うように指示されていた。
リーダーであるエイサを中心に、打ち合わせ通りに陣形を取る。
前衛に割り当てられているのは審査での成績が攻撃力トップのエイサを始めとして、火力の高いスキルを持ったメンバーたち。
中央に補助役の木の魔法剣の使い手などを守るように配置し、陣形の
通常、冒険者パーティは4人から6人程度で作られる。
これはギルドでの規則ではなく、先人たちの経験が元になって効率化された結果だ。
ダンジョン内には狭い道や入り組んだ地形が多く、少数精鋭の方が戦いやすい。
数が多すぎると連携が難しくなるし、魔法剣のスキルに任せた大味な現代の戦い方はそもそも大人数には向いていないのである。
クリムはそんなこと気にもせず、とりあえず使えそうな冒険者を選んだ。
そして10人という大人数になったのだが、エイサはそれを見事にまとめ上げていた。
幸運にも今回のダンジョンは10人以上の大所帯でも狭く感じないほどに巨大な穴が続いている。
エイサは事前にダンジョンの事を調べていた事もあり、予定通り陣形が機能するだけの広さがあった事にホッと胸をなでおろした。
(ここからが本番よ、私!)
ダンジョンの入り口から奥に行くほど光は届かなくなり、暗闇だけが濃くなっていく。
ヒュウと風が鳴り、冷たく首筋を撫でる嫌な気配が漂ってくる。
まるで巨大で怪物の口の中に飛び込むような、不気味な恐怖がそこに待ち受けている気がした。
初めての魔界のダンジョンに足がすくみそうになる。
そんな弱気を振り払い、エイサたちは勇者の後を追って穴の奥へと踏み込んだ。
(大丈夫よ……! 私たちにはクリムさまがついているんだから……!!)
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