066:勇者は苦戦する② ~追放サイド~
ダンジョンには魔力が
それはダンジョンに住み着くモンスターから滲み出る魔力が溜まっていったものだと言われるが、ではなぜモンスターたちはダンジョンに集まるのか。
ダンジョンが先か、モンスターが先か……人類はその謎を解明できていない。
そしてそんな理屈など、冒険者たちには関係のない事だった。
「うおお!!
クリムが気合一閃、自慢の魔法剣を振り回す。
赤く光る刃から放たれた鮮やかな朱色の炎が、洞窟の中のモンスターたちを焼き払った。
「ギィィィィィィィィィィィーーーーッ!!!!」
やけに甲高い不気味な断末魔を上げてダンジョンのモンスター、サンドスケルトンたちが消滅していく。
「フッ……俺様にかかれば楽勝だぜ!」
まだダンジョンの入口なだけあり、出てくるモンスターの危険度はCランク程度のザコばかり。
わざわざ不必要に強力な得意技でザコモンスターを一掃して見せ、クリムはキメ顔で振り返った。
「すごい! さすが勇者さまだ!!」
そこには瞳を輝かせて賞賛の声を上げるサブパーティの面々がいる。
それは期待通りの言葉、のハズなのだが……
「…………は?」
クリムは不快感で顔を歪ませた。
賞賛のその視線は、クリムの倒したモンスターが今まさに塵になっていく所の地面ではなく、周囲の壁に向けられていたからだ。
視線の先にあるのは洞窟を照らす不思議な花たち。
地上の光が届かずに暗闇だった洞窟は、今はその花たちによって照らされている。
洞窟を照らしているのは光球花と呼ばれる魔力を持った植物だ。
魔力を光に変えて洞窟内を淡い緑の混じった幻想的な光で照らしている。
それは木の勇者キキーが魔法剣のスキルで生み出したものである。
「すごい、これが木の勇者キキー様のスキル……今まで見た木の魔法剣とはレベルが違う!」
木の魔法剣は癒しの力を持つ魔法剣であり、生命力を司るスキルを使う事ができる。
サブパーティのメンバーの中にも木の魔法剣の使い手は存在するし、彼女は光球花を生み出すスキルも持っていた。
だが、ここまで強い光を放つ光球花を、それもこの広い洞窟を一人で充分に照らすほど大量に作り出すスキルが使えるのはキキーだけだ。
普通の使い手なら小さな花が一つ咲く程度で、Aグループとしてサブパーティに選ばれた冒険者でさえ自身の周囲を照らすのが限度なのである。
「すごいです! いったいどれほどの魔力を注いでいるのでしょう……」
キキーは洞窟を照らすという彼女にとっては初歩的な作業だけで、自身の勇者の名にふさわしい実力を示していた。
「必要なのは量じゃない。効率化が大事だよ。魔法剣のスキルは人それぞれだから、自分のスキルにあった魔力の使い方を研究した方がいい。光球花だったら、花の色とか、形状をイメージで変えられる。それだけでもスキルに対する魔力の影響力は変わるよ。まだ入り口で余裕があるから、少し試してみる?」
「は、はい!」
キキーは元々パーティ内では後衛を務める事もあり、クリムのように前に出るのではなくサブパーティの様子を見ながら進んでいた。
まだ直接的な戦闘に加わっていない事もあり、助言をする余裕すらもある。
「
「光の色は白……なんて固定概念に囚われる必要はないよ。私の光を見て、真似して見て」
「あっ、本当です! 込めている魔力は同じなのに……光の強さが全く違う!」
「うん、良いね。呑み込みが早いよ。この調子だと私なんか追い抜いちゃうかもね」
「そ、そんな! も、もう! キキー様、からかわないでください!」
「キ、キキー様! 私のスキルも見てください!!」
「あ、あたしも!!」
「はいはい。でも、気は抜かないでね。ここはダンジョンなんだから」
「「「はいっ!!」」」
キキーがサブパーティの連中と楽しそうにやっているが、もちろんクリムは楽しくない。
クリムが直々に審査して選び抜いたとは言え、サブパーティの面々は予想以上に攻撃力が高かった。
攻撃力で言えば、確かにクリムは頭一つ抜けている。
だが入口程度のモンスターを倒すには問題ない力があるため、戦闘においてサブパーティを助ける必要がない。
つまり、クリムが感謝されないのだ。
本来の目的からすれば、むしろそうでなくては困る。
勇者パーティをサポートするためのサブパーティなのだから。
だが今のクリムにはそれが面白くない。
なぜならクリムはもっとチヤホヤされたいのだ!
サブパーティのメンバーたちから畏怖と憧憬と尊敬を集めたくて仕方がないのである。
(クソッタレが~~~!! さっさとあのザコ共が泣いて慄くような強モンスター出てきやがれってんだよ~~~~~~!!!!)
と、勇者らしからぬ事を考えながらズンズンと先へ進むクリム。
そして幸か不幸か、その願いは見事に適うのである。
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